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写真観測方法

推奨する観測法1 用意するもの

推奨する観測法2 写真観測の種類

  1.流星の軌道を求める観測

  2.流星出現数を求める観測(写真計数観測)

  3.流星の発光物理を解明するための観測

推奨する観測法3 軌道を求める観測

  1.しし座流星群の軌道を求める本観測網の意義と目標

  2.軌道計算手順の簡単な解説

  3.観測地の選定

  4.観測設備計画

  5.観測実施に当たって


推奨する観測法 1

用意するもの

         1998年しし座流星群 西日本写真観測網
                 事務局 (司馬康生)

・バルブ(B)撮影のできるカメラ(一眼レフ式のものが有利です)
・レンズ....口径比(F値)の明るい(小さい)レンズ
単焦点レンズの方がズームレンズより一般には良い結果を得ます。
焦点距離は改めて説明します
・レリーズ....バルブ露出のための小道具
・カメラを同架し自動恒星時運転できる赤道儀 または カメラ三脚
・フィルム....ISO400以上の高感度のもの(白黒、カラーいずれも可)
・回転シャッター....流星の角速度決定のための道具
最大限装備されていることを希望しますが、至急準備できない、
または、電源の確保できない場所での観測などでやむを得ない場合は
無くても結構です。
・カイロ....レンズの夜露付着予防のため、レンズを保温します。
0゜C程度以下になる場合、使い捨てカイロは反応効率が落ちるため
効果が現れない場合があります。その場合、カイロ灰を使うもの、
電熱線による保温などの工夫が必要です。回転シャッターを使う場合、
そのモーターの発熱のため、ほとんど夜露は付きません。
・懐中電灯....赤セロハンなどで減光したもの
・時計....暗い所でも容易に秒単位まで正確に読み取ることができるもの
・記録用紙と鉛筆....ボールペン,芯の硬い鉛筆,シャープペンは夜露で濡れ
た紙にはうまく書けません。
・星図....写ったであろう流星の経路を記入するためのもの
必要ならば、日本流星研究会制作の星図のコピーをお送りします。
お申し出下さい。
・画板など....記録用紙や星図をクリップで留めれば風で飛びません。
私は鉛筆と定規も紐でぶら下げています。
・充分な防寒服....地域によっては相当冷えます
・座椅子 または サマーベッドなど....立ったまま空を見るのは疲れて長続き
しません。地面に広げたシートの上に横になってもけっこうです。

<その他、眠たくならないため、寒く感じないための道具は各自ご検討下さい>

<また、電池、鉛筆、フィルムなど予備も忘れずに >


推奨する観測法 2

写真観測の種類

         1998年しし座流星群 西日本写真観測網
                 事務局 (司馬康生)

 流星の写真撮影では、具体的な観測テーマに即していくつかの種類が実施また
は企画されています。ここではそれらを整理し、観測テーマと、撮影の方法とが
ミスマッチしないために、「何を目的として撮影するか?」を手段、方法と絡め
て明確にしたいと思います。

1.流星の軌道を求める観測

 本観測網では、この観測をテーマとします。詳細については次回に紹介し、
ここではその他の観測に付いて簡単な解説を加えます。

2.流星出現数を求める観測(写真計数観測)

 従来行われることのほとんど無かった観測法です。1966年のしし座流星群の大
出現では短時間露出の写真に、多数の流星が写っていました。また、日本で起こ
った1991年のペルセウス群の突発でも1コマに多数の流星が写った写真が各地で
撮影されました。これらは流星の出現が多かったことの動かぬ証拠を提供し、眼
視観測では得られぬ客観的データと言えます。しかし、残念ながら過去に得られ
た写真データは、偶然写ったものが多く「定量的」という点で甘さを残していま
す。そこで今年のしし群の極大期には偶然ではなく、明確な目的を持って(時刻
−出現数)の関係を、写真観測だけから描くことのできる観測をしましょう。こ
れが「写真計数観測」です。
 写真計数観測の利点は特に出現数が多くなったときです。1時間あたり200程度
以上の流星が出現すると、眼視による計数観測は物理的な困難さに加え、冷静な
観測も困難になるでしょう。この点でも良く企画、実行された「写真計数観測」
は眼視観測に代わって良質のデータを残すことでしょう。
 では、具体的な機材企画を考えてみましょう。

 ・カメラ

 手動でのシャッター操作は、この観測が最も成果を上げるであろう大出現
において、冷静な操作ができるかどうかで疑問を残す。露出時間の変動は、
背景のかぶりを変動させ、出現数の見積に影響するだろう。従って一定時間
で自動露出できるカメラが最適。そのような装置としてCanonでは「コマンド
バック」というアクセサリが発売されている。他社からも同種の装置が発売
されおり、この目的には役立つ。それらの利用の他、オムロンから発売され
ているタイマーを利用する、あるいはパソコンで作った簡単なプログラムを
使い、カメラの電子シャッターを作動させるなどの方法がある。
 私見ではあるが、これらの自動露出が見込めない方は軌道を求める観測を
中心に考えた方が無難かもしれない。もちろんいかなる大出現にも動じない
強い意志が有れば別だが。

 ・レンズ

 口径比(F値=焦点距離/有効口径)の明るい(小さい)レンズが有効である。
周辺減光が少なく、像の崩れが少ないものが望ましいのはもちろんである。
短焦点(広角)レンズを勧める。理由は、同時期に各地でTVによる流星観測
が行われるだろう。その観測からは、暗い流星の出現数の変化が正確に決定
されるだろう。そのTV観測と競合しにくい分野として明るい流星を広い面
積に対して観測する短焦点レンズが好適である。もちろん長焦点レンズが使
えない訳でなく、それなりの成果が見込まれるし、天候によっては貴重なデ
ータになるだろう。

 ・フィルム

 カラーフィルムよりモノクロフィルムが、写った流星の光度測定で紛れが
少ないと思われ、望ましい。具体的にはT-Max 3200(ISO3200)やT-Max 400
(ISO400)が本命か。一度試し撮りをし、現像処方までチェックしておくと、
ミスを防げるだろう。

 ・固定撮影で
 フィルム上に写った恒星の日周運動像と流星像の濃度を比べ、流星の光度
を概算することができる。ガイド撮影ではこの濃度比較が難しい。流星の光
度を決定することで(時刻−出現数)の関係と(光度−流星数)の関係が平
行して決定できる。これは流星物質の空間密度を質量として求める場合に重
要なデータとなろう。

 次に観測時の注意点を記す。

 ・露出時間は短く

  フィルムのカブリを避け、雲などの天候の影響を最小限にするために、短
時間露出を勧める。短時間露出ならば、出現数が少なかったときに集計単位
時間を長く変えることも可能だが、その逆はできない。
  例えば36枚撮フィルムを5分露出では、0時から撮影開始すると2本目が
6時で終了する。また、3分露出なら0時からフィルム3本で5時30分近く
まで撮影可能である。このくらいのスケジュールでどうだろう。問題は、フ
ィルム交換である。突発大出現のタイミングと重なると大問題だ。2台のカ
メラが有れば、フィルム交換のタイミングがずれるように操作できて万全だ。
  なお、鑑賞写真ではないので、多少の雲に慌てず、一定の撮影を継続する
事が重要である。

 ・撮影方向
  天頂に向けて撮影すると単位面積当たりの出現数集計が楽である。
どの観測方法でも言えるが、データは正確に記録することを忘れずに。
時刻データのようには後で思い出せないだろうものは特に注意してほしい。

 観測後

 ・(時刻−出現数)の集計

  フィルム上に写った流星数を撮影時刻の経過に対して求める。
フィルム上の最微星が大きく変化している場合には、その修正が必要になる。
また、放射点の移動に対する修正も必要である。

 ・(光度−流星数)の集計

  光度の測定は、正確にはネガ濃度をフィルムスキャナを使うなどして正確
に求めたい。これら集計の2項目では、必要が有れば連絡をいただけることで助言でき
るかもしれない。

3.流星の発光物理を解明するための観測

 流星は天文学の一分野であると共に、大気内現象でもあります。流星の発光物
理を調べるためには、この大気内現象という側面を重視しなければなりません。
流星が大気とどのように衝突してどのように光り、高層大気にどのような効果を
もたらすのか、不明な部分が多くあります。流星物質そのものを理解するための
観測から、高層大気の物理を調べる観測まで幅の広い内容を含みます。
 多方面の観測が想起できますが、以下にはこれまでに実施された実績のあるも
の一部を紹介します。

(1)光度変化・速度変化を調べる

 従来の発光モデルでは、大気内に突入した流星物質は、大気密度の上昇に従っ
て増光し、やがて流星物質の摩耗のため減光するという単純なパターンを描きま
す。しかし、実際には爆発的な増光など複雑な光度変化が観測されます。これは、
流星物質が大気との衝突で破砕され、その表面積が増えることで効率よく発光す
る結果です。この効果を含んだ「破砕理論」から、流星物質は従来言われていた
ようなスカスカの低密度物質でなく、隕石の密度と比較できる程度の密度のもの
が多いことがわかってきました。
 一方、流星が大気内を飛行し空気抵抗を受けて減速する様子を観測することで
その表面積と質量の関係など、物理的なデータを得ることができます。
 この両データは互いに関連して議論され、流星の発光現象を理解するための基
礎的な資料となります。
 現在、破砕理論に付いては旧ソ連邦の研究者で熱心に取り組んでいる人がおら
れますが、日本でこの方面に関心の有る方は少数に見受けます。
 この種の研究は、軌道を求めるだけのデータが既に得られている流星に対して
成立するので、新しく流星の写真観測を始める方は、まず、流星の軌道を求める
ことを目標にスタートしましょう。
 破砕理論登場前の研究は、
長沢工,斎藤馨児 編 「流星II」 恒星社厚生閣
 に、詳しく書かれています。

(2)スペクトル写真を撮影する

 流星のスペクトルは、太陽光のような黒体輻射による連続光ではなく、様々な
元素の出す輝線の集合体です。その輝線の波長を調べ、発光元である元素の種類
を求めることは、流星物質がどのような組成であったかについて調べることにつ
ながります。
 流星のスペクトルは、通常の写真観測のカメラ装置の前にプリズムまたはグレ
ーティングを置いて撮影できます。プリズムは安価ですが、波長の長い光に対し
て分散が小さいため、正確な波長の決定が難しく、近接した輝線の分離が困難で
す。また、タカハシ製作所からかつてプリズムが発売されていましたが、現在は
適当な流星観測用プリズムを入手することが困難です。一方、グレーティングは、
ブレーズされたものでないと回折像の光量が少なくなり、写りにくくなりますが、
ブレーズされたものは高価です。
 いずれの分光素材を利用する場合でも、レンズの焦点距離の長いものが、詳し
い解析には向いていますが、視野に入る流星数は少なくなります。

(3)流星痕を観測する

 しし座流星群のように特に速度の速い流星が大気内に突入すると、その飛跡に
沿って光が残ります。これは流星の飛行によって生じた高温のプラズマの発光が、
流星が通り過ぎた後も維持されて観測されるものです。これを流星の「痕」と呼
び、通常は1,2秒程度で見えなくなる「短痕」です。しかし、しし群のように特に
高速で明るい流星の多い流星群の中には、時に10分を超えるような痕が観測され
ます。これは「持続痕」(永続痕)と呼ばれます。
 しし座流星群は、持続痕の観測には絶好の対象です。

a.流星痕の移動,形状変化

 持続痕の移動から高層大気の運動を調べることは、大気レーダーやロケットに
よる観測が行われるようになった現在、魅力が薄くなりました。一方、形状の変
化は戸田雅之氏,重野好彦氏らの最近の研究から興味深いことがわかりつつあり
ます。すなわち流星痕の発生後、特定の時間帯に一定の高度領域で痕が螺旋形状
を示すことなどです。現在の課題はこの特徴が広く一般的なものなのか、また、
その形状が現れる原因が何によるのかなどです。これを観測するためには、85〜
200mm程度の明るい望遠レンズを使い、流星出現直後に発生した痕に直ちにカメラ
を向けて撮影を始め、5〜10秒程度の露出を肉眼で痕が見えなくなった後まで繰り
返し撮影します。フィルムは感度の高いT-Max3200が最有力でしょう。時刻の記録
は、JJYの時報を流したままにしておき、シャッター音などと共に録音することが
有効でしょう。ガイド撮影は不要ですが、操作性の良いカメラと三脚を使って練
習をしておくと良いでしょう。2点(以上)から協力して観測できると、立体的な
痕の形状変化を調べることが可能です。

b.流星痕のスペクトル観測

 短痕のスペクトル成分は、酸素の558nmの光が最も明るいため緑色をしている
ことがわかっています。しかし、時間の経過と共に、痕の色は緑から赤に変化し
ます。この持続痕の領域に入った時の赤い光のスペクトルデータはほとんど得ら
れていません。最近、鈴木智氏により、持続痕の初期には、流星物質そのもの起
源と見られる元素の発光が確認されました。しかしそれは時間と共に弱くなり、
問題の赤い光が出現します。ただ、この赤い光の正確な同定にはもう少しデータ
が必要な感じです。
 痕のスペクトル観測は、広がった淡い対象をさらに分光し、その上に時間変化
を伴う難しい観測対象です。流星観測者が何十年かかって成功しなかった観測で
あり、ある程度の機材と、綿密な計画など、十分な備えが必要です。逆に成功し
たならばその価値はたいへん大きいと言えます。


推奨する観測法 3

軌道を求める観測

1998年しし座流星群 西日本写真観測網

事務局 (司馬康生)

1.しし座流星群の軌道を求める本観測網の意義と目標

 もし流星嵐の出現を正確に予報できるとしたら、多くの人がその珍しい現象を見られるのみならず、様々な観測や実験が進んだり、人工衛星に対して及ぶであ

ろう被害も阻止できるでしょう。そのための基礎的な知識として、母彗星回帰に伴うしし座流星群の軌道を詳しく調べることができる貴重な機会です。ここで、流星群の軌道進化を議論できる正確で基礎的なデータとしたいと考えます。

 しかし残念ながら、写真観測から決定される流星の日心軌道は一般に大きな誤差を含みます。それは、空気抵抗を受けて、速度が急変するほんの1,2秒間の流星の運動を観測することでしか軌道を決定することができないからです。これは、安定した条件で何日〜何年かけて決定される彗星や小惑星の軌道との大きな違い

です。しかし、大きな誤差をやむなく含む流星の軌道データを、できるだけ信頼に値するものにするための努力は行います。また、個々のデータの誤差は大きくてもデータ数が多くなれば統計的に信頼できる資料となるでしょう。従って、多くの軌道データを手にしたいとも考えます。

 結論として

1. 精度の良い軌道データを求める

2. 多くの軌道データを求める

の2点を目指したいと考えます。

2.軌道計算手順の簡単な解説

 詳細を解説すると1冊の本になるくらいなので、簡単な流れの説明にとどめます。流星の日心軌道を求める手順は次の通りです。

 1. 2点(以上)から得られた流星写真 (時刻,経緯度 等 データ完備)


2. フィルム整約 (写真を測定し、流星の天球座標を求める作業)

3. 対地経路計算 (地表面に対する流星経路を計算する)

4. 日心軌道計算 (その流星物質が地球に突入する前の軌道を計算する)

 参加される皆様に実施していただきたいのが、1.の観測によって写真を撮影する項目です。可能な方には 2. のフィルム整約もお願いしたいと考えています。

 1点から観測した流星は、見かけ上直線(大円)に見えます。更に、適当な距離をおいて離れた2点以上から同一流星を撮影することで、流星の3次元上の位置が正確に決定できます。これはいわゆる三角測量の原理によります。1点からの観測ではいくら頑張っても軌道は決定できないわけです。そして、2点以上の観測点は放射点の位置に対して適当な位置関係と距離を持つときに軌道誤差が最小になります。その条件は、次のような場合です。まず流星を直線で近似したときに、その直線と観測点を含む平面を考えます。観測点が2点有れば2平面ができます。この2平面が直角に交わる時、誤差は最小になります。また、流星から観測地点までの距離が短かい場合も誤差は小さくなります。

 こういった条件が有るからこそ、観測網を設立し、協力した観測をお願いするわけです。

3.観測地の選定

(1)観測地として好ましい条件

 観測者によって様々な条件が絡む項目のため、こちらから確定的な事を申しにくい部分もあります。留意する点は次のような項目でしょうか。

1. 天候の良い所....晴れなければ話になりません。しかし、難しい!

2. 安全に観測できること....足を踏み外して、とか野犬が心配などのない所。

3. 周囲に迷惑が及ばない....侵入してはならない所、寝ている人の迷惑にならない、三脚の設置が可能など。

4. 視野が開けていること....できれば全天見渡せる所

5. 光害が少ないこと....街灯や車のライトの射す所は避け、暗い環境を目指す。

6. 低湿地をさける....ため池周辺などは放射冷却による霧や霜に悩まされ易い。

(2)パートナーとの位置関係

 単独のグループで2点からの写真観測を計画する場合には、2点を最良の位置関係になるように当初から計画しますが、本観測網では参加される皆様の選んだ観測点に対し、適当な目標空域を事務局で設定するという手順を取ります。従って、こちらから観測点の移動を促す予定はありません。

4.観測設備計画

 必要な設備は「推奨する観測法1」に示しましたので、ここではその中で特に追加する項目を書きます。

(1)カメラ・レンズ

 シャッターを開いたまま流星の出現を待ちますので、B(バルブ)撮影のできるカメラが必須条件です。最近の電子化されたカメラより中古の機械式シャッターのカメラがむしろ使い勝手が良いかもしれません。電子シャッターはシャッター開放中に電力を消費する製品もあり、予備電池を持っておく方がよいでしょう。特に気温の下がる地方では、リチウム電池などの低温特性の良いものが安全です。複数のカメラが使えるなら、可能な限り多くの台数を備えることで、多くの流星を捕らえることができます。ただ、暗い中で手際よく操作できなければなりません。

 レンズは可能な限りズームレンズを避け、口径比の明るい単焦点レンズが望ましいことは、既に述べた通りです。一方、焦点距離の選択によって狙いは変わります。焦点距離の長い望遠レンズを使うと視野が狭くなりますが、口径が大いために暗い流星まで写ります。前者は撮影できる流星数を少なくし、後者は逆に増加させます。このうち前者の効果が大きく、流星を数多く写したいという目的なら焦点距離の短い広角レンズが向いています。しかも、視野が広いということは、協定空域へレンズを向ける方向の誤差が大きくても、狙った方向がその中に含まれることになります。しかし、長焦点レンズにも大きな長所が有ります。それは、フィルム整約によって得られる流星の位置の誤差が小さいことです。経験的に、測定誤差はフィルム上の10μm程度になります。焦点距離が2倍になると、測定位置誤差はおおむね半分になります。しかし、むやみに焦点距離の長いレンズを使っても、流星の経路の一部しか写らないのでは考えものです。およそ200mm程度が上限かと思います。ただし、中版カメラなどフィルム面積の広いカメラなら、もう少し長い焦点距離のレンズでも役立ちます。

 結論としては、望遠〜広角のいろいろなレンズが使えますが、その特性の違いを理解して使っていただけると良いでしょう。

 なお、当夜はレンズの絞りやピントをそれぞれ開放,∞にテープで固定しておくと良いでしょう。
 最近はデジタルカメラも普及していますが、画素数からは従来の銀塩フィルムと同等の結果精度を得ることはまだ難しいと思います。

(2)赤道儀

 可能な限り自動ガイドによる恒星時運転で撮影されることを希望します。それは、もし多数の流星の出現で、時刻の記録が取れなくなっても、軌道計算に使用可能だからです。

 様々な赤道儀がありますが、頑丈なもの、カメラを搭載した上でバランスが取れて操作性の良いか、チェックしておいてください。
 極軸のセッティングやモータードライブの操作なども慣れているものなら安心です。
 カメラを搭載できる赤道儀が使えない方は、カメラ三脚を使います。ガタが少ない堅牢なものが、風の影響を受けずに信頼できる撮影が可能です。

(3)回転シャッター

 流星の速度を求めるために不可欠の装備です。これが無いと対地軌道は計算できても、肝心の日心軌道まで到達できません。ただ幸いなのは、2点以上から撮影された流星について、少なくとも1点で回転シャッターが使われていれば日心軌道が計算できます。従って、協定空域を設定する時に、少なくとも1人または1グループが回転シャッターを装備した上でそこに参加していなければなりません。この点は事務局で留意して協定空域を設定する予定です。逆に、回転シャッターを使った観測が可能な方には、ぜひこの観測網に参加をお願いしたいと思います。

 回転シャッターとは、レンズの前面に扇風機の羽のようなものを一定速度で回転させて、流星像を切るものです。これを使って写した流星像は一定時間間隔で途切れた直線に写り、その途切れの時間間隔がシャッター羽の数と回転速度によって決まります。羽を回転させるモーターとしてシンクロナスモーターがよく使われます。これは交流電源周波数に同期して回転するモーターで、安定した周波数の電源に接続すれば、安定した回転数が得られます。日本の商用交流電源(AC100V)の周波数60Hz(東日本で50Hz)は安定しており、信頼できる電源です。一般に、シンクロナスモーターには適当な減速歯車を組み合わせて適当な回転数を得ます。しし座流星群はたいへん速い速度で大気に突入するので、流星像の切断の時間間隔も短くなくてはなりません。しし群の場合、焦点距離50mmレンズに対して60[回/秒]程度の切断が良いでしょう。長焦点レンズの場合、もう少し速い切断が良く、逆に短焦点レンズではもう少し遅くすれば良いでしょう。結果として、流星像の切断点が10個程度以上有り、痕によって切れ目が不明確にならない程度が望ましい切断数です。

 信頼できる交流電源が得られない所では、直流12V電源から安定した周波数のAC100Vを出力するインバーターを重野好彦氏が製作されて既に成果を上げています。

 また、ステッピングモーターなど他の種類のモーターの利用も考えられますが、実用された例をほとんど聞きません。

(4)フィルムの選択

 カラー、白黒いずれでも結構です。感度はやや高いISO400程度以上が写りが良いでしょう。さらに高感度のISO 1600〜3200の感度のフィルムは、やや特殊なフィルムであり、天体写真をあまり撮ったことの無い方は避けた方が無難です。白黒フィルムの場合は、自家現像で最適な処方をして下さい。

 スライドフィルムは、露出許容度の幅が狭いため、光害の多い場所で撮影するときに、露出オーバーにならないように特に注意しなければなりません。
 どうしても光害のひどい場所で撮影する場合、赤外フィルムである、コダックの High Speed Infrared フィルムにR60などの赤フィルターを組み合わせると、光害の影響を最小限に抑えられます。しかも、しし群のような高速流星は赤外域で明るく光っているため良く写ります。反面、恒星の写りがたいへん悪いので、赤外フィルムを使う場合にはぜひ自動ガイドで、恒星がしっかり写るようにして下さい。そうしないと、せっかく写った流星の位置測定ができなくなります。なお、赤外フィルムの現像には特に注意が必要です。

5.観測実施に当たって

(1)正確な記録の重要性

 正確な時刻記録は流星の同定、軌道計算にとにかく重要です。特に、

固定撮影で時刻の記録が曖昧なものは、軌道計算に全く使えません。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 もし、立派な流星が写っても鑑賞写真の域にとどまるか、科学的に意義のある写真になるかの大きな違いが時刻記録です。もちろん、しっかり時刻が記録され、科学的に有意義な資料となった写真の鑑賞的価値は少しも損なわれません。鑑賞写真だけを目的に撮影しようという方も、ぜひ時刻の記録だけはお願いいたします。

 流星出現時刻に関しては、見落としも生じ、100%漏れなく記録できません。しかし、他の観測者が記録している場合もあります。流星出現時刻は80点主義という意識で、しかし、記録したものについては信頼できる、という方針をお願いします。一方、露出開始,終了時刻は、心の準備ができたところで行われ、撮影者しかわからず、後日思い出すこともほとんど不可能、という理由から、100%正確な記録を残して下さい。

 観測地の緯度経度は、国土地理院の2万5千分の1の地図を使うことで角度の秒の単位まで求めます。国土地理院の地図は、大きな書店で置いている所があります。もし近くで見つからないときは、事務局で探しますので、ご連絡下さい。経緯度の1秒はおよそ25mの長さに相当します。かなり高い精度と思われるでしょう。しかし、焦点距離50mmのレンズで上空100kmの高さの流星の位置を求めた時、20m程度の誤差で決める能力があります。経緯度の1秒というのも本当はもう少し高い精度がほしいのです。しかし国土地理院の地図自身の誤差のため、秒の精度にとどめます。もし、都市部などで1万分の1の地図を使える地方は、それを使って0.1秒の桁まで求めて下さい。天候などで移動観測となった場合でも、後日確認できるように注意して下さい。

 回転シャッターの回転数は、確認、測定して下さい。なぜなら、軌道計算の過程で最も大きな誤差を生む要素が速度誤差です。簡単なチェックとしては、シャッター羽の中央に白黒の等分の角度の放射状の縞を描いた紙を張り付け、蛍光灯の下で回転させて見たときに、縞模様が見かけ上回転しなければ正確に同期しています。ただし、放射状の縞の数Lは、黒(白)だけを数えて次のようにします。

L=2×z/n z:電源周波数(西日本60,東日本50)

    n:1秒間の回転数(rps)

 もし、見かけ上回転しているときは、1回転するのに要した時間を測り、当初回転数nに減じ(もしくは加え)なければなりません。

 他の記録については、一般に上記3点ほど重要度は高く有りません。しかし、使用カメラ,レンズ,フィルムなど、通常の記録報告もお願いします。

(2)撮影方向

 観測者は、それぞれ協定空域方向へカメラを向けます。複数のカメラを操作する場合は、協定空域の周囲を固めるように配置していただけることを希望します。カメラを向ける方位角は協定空域と、ご自身の観測地との位置関係を地図で確認し、決定して下さい。仰角は、協定空域は上空100kmの高さとしますので、観測地と協定空域との距離を地図から求めて、作図、または三角関数を使って計算できます。星座早見版などを使えば、目標の方位角と高度は、星座でどの位置になるかがわかります。これらの作業は各観測者でお願いいたします。

 自動ガイドの場合、30分〜1時間おきに、写野方向を戻さなければならないことをご了解下さい。

(3)露出時間

 もし流星が多数出現する場合、露出時間は記録に支障の無い範囲で短い方が良いと考えます。反対に、流星の出現が少ないときはフィルムのかぶりが気にならない範囲で長くても結構です。

 流星数が多くなった時に露出を短くするのは、個々の流星の同定を容易にするためです。もし、1枚の写真に数個の流星が写ったなら、正確な記録があっても、どの流星が何時何分出現かの確定が困難です。まして、そのような状況では見落とし流星の割合が急速に増加します。そのような困難を避けるには、露出を切り詰めることが最も効果的です。1分間に5個程度の集中した流星数になれば、2〜3分露出くらいが適当でしょう。これは1991年のペルセウス群の突発出現において中村彰正氏が撮影された露出条件で、多数の明るい流星の出現時刻確定にたいへん役立ちました。もっと流星数が多くなれば・・・・正直なところわかりませんが、さらに短い露出で可能な限界まで続ける他に手はないでしょうか。

 逆に、流星数が少なければ、空の条件さえ良ければ20〜30分露出も可能でしょう。回転シャッターを使うとかぶりが減るので、露出時間を延ばすのに有利です。

(4)観測開始・終了時刻

 観測は放射点が地上に昇ってから可能で、観測終了は明方の薄明で星が見えなくなる付近です。これらは地域によって多少違いがあります。例えば、輻射点が昇るおよその時刻は、大阪では23時10分,福岡では23時35分,那覇では24時00分です。この時刻以降流星の出現の可能性があります。しかし、一般に輻射点が低い間の出現数が少ないので、この時刻から撮影できる準備をしておき、撮影開始はその1時間後頃からで良いでしょう。ただし、それまでに長経路の流星が東から西に多数飛ぶなら、観測開始は繰り上げます。

 一方、観測終了は、天文薄明開始が大阪では5時00分頃,福岡,那覇では5時20分頃です。多くの天体写真は、薄明以降に撮影しませんが、流星を目的とする場合、もう30分粘ってみて下さい。大丈夫かな?と思うくらいに空が明るくなりますが、明るい流星ならしっかり写ります。もちろん露出は少し短かく。いよいよ2,3等星までしか見えないくらい明るくなったら観測終了です。

(5)タイムマーク

 固定撮影で流星を撮影する場合のみ考慮が必要です。固定撮影から流星の位置を求めるとき、その基準とするために、日周運動で流れる恒星像の一部に切れ目を作るものです。

 日周運動で流れた恒星像を使ってフィルム整約−位置測定を行うと、赤経方向の誤差が赤緯方向の2倍程度生じます。タイムマークは、これを同等に低減するためのものです。しかし、それでも測定のための比較星が容易に選べるガイド撮影と比べると、やや精度が劣るのはやむを得ません。

 具体的には、レンズの前面を黒い布などで10秒程度遮蔽し、その時刻を正確に記録するだけです。遮蔽のタイミングは流星が写ったであろう後の、適当な時間で結構です。2個流星が写ったと思われる場合でも、一度で結構です。もし多数のカメラを扱う場合、露出の中央付近で一度にまとめてタイムマークを入れても結構です。

(6)記録用紙

 厚手のノートと、星図を用意します。星図は画板などにクリップで固定し、風で飛ばないような工夫が必要ですし、鉛筆や懐中電灯も転がり落ちないように工夫しましょう。

《ノート》

 まず、ノートに次のような表を作ります。暗所での記入を考えて各欄は余裕を持って広く取ります。表を中央から左右に分けて作っても結構です。

---------+----------+----------++------+----------+----+------
フレーム| 露出開始 | 露出終了 || 流星 | 出現時刻 |等級|備考
No.| h m s | h m s || No. | h m s | |
---------+----------+----------++------+----------+----+------
| | || | | |
---------+----------+----------++------+----------+----+------

 《各欄の項目》

 ・フレームNo.:撮影コマ数

・露出開始 :露出開始時刻を秒の単位まで正確に

・露出終了 :露出終了時刻を秒の単位まで正確に

・流星No. :写ったかもしれない流星の番号で、星図の矢印と対応させます。

暗い流星が飛んでも写らないので無視します(*表1 参照)。

・出現時刻 :その流星の出現時刻を秒の単位まで記入します。

・等級 :流星のおよその等級を記入します。近接位置に出現した時に、

明るさで区別する事を期待した項目です。

・備考 :その他特記事項が有れば記入します。〈散在,痕3分 など〉

 《星図》

 星図には写真に写ったであろう流星の経路を矢印で記入し、その番号をノートの記録と対応させます。

* 表1 レンズと写真に写る流星等級(目安程度です)

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焦点距離,F値 極限等級
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15mm, F2.8 -3〜-4
24mm, F2.8 -2
50mm, F1.4 1〜 0
85mm, F1.4 2
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