再構成版 日本一周徒ほほな旅
第2回:国道19号を北上、しかし・・・。
熟睡できないまま、テントの外が明るい。時計は5時過ぎ。コッヘルで米を炊き、ふりかけご飯と
みそ汁。片付けて6時半出発。曇りで時々雨がぱらつく。国道19号で明科の町を抜ける。ちょうど
小学生の登校時間。集団登校の小学生軍団、元気よく「おはようございます!」こんな得体の知
れないザックマンにも隔てなく挨拶してくれるのが嬉しい。少し心に余裕ができた。
長野市へ向かうこの道は、車でも、自転車の練習でも、幾度となく走っている。よって見慣れた
景色であるのだが、初めて歩き、ちっとも景色が進んでいかない。超のつくスローモーション。歩い
ても歩いてもちっとも進んでいかない感じがもどかしい。川沿いの田舎国道なので、集落の切れ目
が歩道の切れ目。狭い路肩をぶっ飛ばしていくトラックにびびりながら黙々歩く。そしてスローモー
ションの中で目に付くものと言えば、道ばたに落ちているゴミ、ゴミ、ゴミ・・・。日本の道ばたはゴミだ
らけ、どこまで行っても、目に入るのはゴミ、ゴミ、ゴミ。現実は、のんびり景色を愛でながら、とはいか
ないことを歩き出して2日目で思い知る。
歩き出して2時間半、9時を過ぎて生坂村に入る。空も気分もどんよりだ。国道はダム湖沿いになり、
行く手には生坂トンネル。国道のトンネルは真っ直ぐで1kmほど。村の中心部を通る旧道は川沿いに
大回りする。が、トンネルで近道する気分にならず、旧道へ。10時半、生坂村中心部、といっても何も
ない。商店の一つくらいあるだろうと思って、パンか何か買うのをささやかな楽しみにしていたのだが、
甘かった。とりあえず郵便局で餞別にもらった現金計2万円を預け入れ。やっと財布が軽くなった。1日
1000円の計画なので大金は持たないようにするのだ。
村はずれ、再び国道と合流する所に自動販売機あり。お店で買い物欲求を満たせなかったので、贅沢
にもジュースにありつく。当然一気に飲み干すとかはあり得ない。座り込んでちびちび飲む。と、軽の1BOX
が停まり、若い兄さんが下りてきた。傍らの自販機で缶コーヒーを買うと、こちらの巨大ザックに目が止ま
ったらしい。
「旅してるんですか?」「ええ」「どこから?」「松本からです。今日でまだ2日目です」「もしか、歩いてで
すか?」「はい、歩きです」「ええー、どこまで行くんですか?」「とりあえず北へ向かって。北海道の方へ」。
まだ「日本一周」というのはおこがましい気がして、しばらくは「北海道」と答えることにした。兄さんも隣に
座り、話がはずむ。
「僕はこの先の八坂村の出身で、演歌歌手なんです。まだ駆け出しなんですが、小金沢昇司って分か
ります?彼、と言っては失礼ですが、同じ事務所なんです。今は地方回りをやっていて、昨日は地元の
さざなみ荘って所で、じいちゃんばあちゃんたちに歌を披露してきたんです」「今日は帰りなの?」「ええ、
昨夜は実家で休んで、今日は東京まで帰ります」「自分の運転で?」「ええ、まだまだ駆け出しですから、
何でも自分でやらないといけないんです」。
芸名は片山大生(かたやまたいせい)という彼は、僕と歳が同じ。話がはずんで、僕も実は日本一周を
企てていることを話す。「よく歩いていこうって思いますね。でも、成功したら是非連絡をください」。この旅
で住所を交換する人1号だ。「今日はどこまで?」「大岡村の道の駅まで行くつもり」「ああ、あそこならテント
も張れそうだ。その手前に、国道の右側にさざなみ荘って所があって、お風呂も入れるから寄るといいよ」。
風呂でさっぱりできると聞いてやる気10%アップ。長話に花が咲いた。時計は14時を過ぎている。「そろそろ
行かないと。何か餞別になりそうなもの・・・、そうだ、これをあげよう」。たいせいが取り出したのは白いたまご
っち。「白色は限定版でなかなか手に入らないのだけど、旅のおともに連れていって」「へー、これは、ありがとう。
育てながら歩いていくわ」
車で去りゆくたいせいを見送り、歩き出す。しかし、昼飯を食っていない。腹減った。1時間ほど歩いて、
山清路。山が迫り、ダム湖の濃い緑。19号では風情のある所だ。雨が落ちてきたので、県道のロック
シェッド内に荷物を下ろし、コンロを出してラーメンを作ってすする。
もう15時過ぎ。目指す道の駅はまだ10kmほど先。風呂も入れそうだし、元気出して行こう!
しかし、である。歩くペースがガタリと落ちる。ここまでは時速3kmくらい、1時間歩いて15分くらい休む、
で進んできた。20kgぐらいのザックを背負っているからだいたいこんなものだろう。歩き旅は初めてだが、
イメージしたペースではある。しかし、ザックが肩に食い込んで強烈に痛い。おまけに足の裏が痛くて痛く
て、一歩踏み出すごとに「あうー」「ぐおー」とうめき声が出る。難行苦行。いきなり来た。重い、足裏痛い、
重い、足裏痛い・・・。知っている道を進む景色はもはや止まっているようにしか見えない。これは風呂に
入って養生したい。しかし、痛い。むおー。
6kmをうめくこと2時間。時計は18時。やっとさざなみ荘が見える。もはや1歩ずつ、ずつしか足が出ない。
ふ、ふろーーーー。脱衣所で靴下脱いでまたびっくり。足の裏、両方とも拇指球まわりが巨大に水ぶくれ。
マメなんて甘っちょろいものではない。そりゃ足をつくたび痛いに決まっている。ひとまず風呂にどっぷり
浸かる。ギシギシの肉体が緩まる。
風呂上がり。この巨大マメ、どうしよう。いずれつぶれるなら、先につぶして乾燥させた方がいいかな。
爪切りを取り出し、ふやけた水ぶくれの皮をチョキチョキと切り取る。切り取った下はまだ薄皮も張ってい
ないので触ると激痛。そこに絆創膏を重ねて貼り、そっと靴下を履く。拇指球が接地しないように歩けば、
そこまで痛くなさそうだ。
時刻は19時。辺りはすっかり真っ暗だ。ヘッドランプを点け、狭い歩道を車に注意して進む。拇指球を
かばうガニ股歩きでペースはいよいよ上がらない。
20時半、長い闇の旅はやっと道の駅へ。ヘロヘロだ。ベンチに座り込む。腹は減った。が米を炊く気力
がない。湯を沸かし、カップラーメンをすする。疲れた。眠い。道の駅の建物、表は駐車場にトラックがいて
アイドリングがうるさいし、排ガスくさい。裏に回る。軒下の草地にテントを張る。道と反対側で、聞こえるの
は川の流れる音。これなら少しは落ち着く。足の裏をかわかすべく、裸足になって絆創膏をはがし、寝袋に
くるまれば即熟睡。
1999年04月19日 長野県明科町(犀川橋)→長野県大岡村(道の駅大岡) 曇り 30km