再構成版 日本一周徒ほほな旅 

         第3回:国道19号を北上、すると・・・。



     そとが明るい。5時半。聞こえるは川の音。軒下テントを片付け、建物の表にまわる。ベンチに店を広げ、
    米を炊く。霧が出て肌寒い。

     8時出発。30分ほど歩き、国道の大きな橋を渡って信州新町へ入る。長野に近づいた感じがする。

     国道は犀川に沿って、ゆるやかに、右に左に、アップダウン。昨日に比べて、山が開けて、霧も晴れた。
    道行く車のドライバーが時々手を振ってくれる。なんや、応援してくれてるんやろか。

     11時。3時間快調に歩いて新町の中心部。足の裏のマメもそんなに気にならない。昨日朝の明科以来の
    まとまった町なのだが、歩いてきたせいか、めっちゃ久しぶりに「町」を見た気がする。体が徒歩の速度に
    慣れてきたのだろうか。スーパーを見つけたので、昨日の生坂村での敗退を取り返すべくお買い物。といって
    も予算は1日1000円と決めているので贅沢は敵。228円の出資で牛乳とアイスクリームを買って店先で食べる。
     贅沢して元気百倍。歩き出し、町外れの信号で待っていると、見覚えのある車が前方に停まる。
    
     「おう、ほんまに歩いとるなあ」。現れたのはヨッシーである。「今日は会社休みやから、どこらへん歩いとるか
    と思って見にきたったんや」「で、これからどうすんの?」「せっかくやで昼飯くらいおごったるわ。この先にローソン
    あるやろ。そこで待っとるで歩いてこやー」「なんや、乗せてってくれへんのか」「あほか、俺は餌を与えるだけや」
    「まあ、メシのためなら歩いてくわ。待っとってや」「ほな、あとでな」
     ヨッシーが車で走り去る。町を出ると、久米路峡。ダム湖に山が迫り、歩道のない国道にトンネル。トラックに
    びびりながら通り抜け、1時間ほどでローソンに到着。
     ヨッシー「遅いやないか、1時間も待っとったで」「あほか、歩きは時速3キロや。こんなもんやで」「そうか、車は
    3分やからな。まあええわ、メシにしよ」。ヨッシーに唐揚げ弁当をおごってもらい、店の外のベンチで食す。
     「歩いてくるとコンビニ弁当でもうまいわ。おおきに」「ほな気をつけてな。またどっかで見に来るわ」

     ヨッシーと別れ歩き出す。15分ほど歩くと、後ろから来た軽トラが横に停まる。乗っていたじいさんが、「兄さん、
    乗ってくか?」と声をかける。今回の徒ほほな旅、もちろん徒歩なのだが、自分としては完全歩行にこだわりは
    ない。歩行よりも旅重視。だから「日本一周」と書いた鉢巻きも幟も看板も持たない。声がかかれば少しは乗せて
    もらうのも全然OKである。だからここは少し乗せてもらうとしよう。「どこまで行く?」「歩きが基本なんで好意の
    分でいいです。この先の道の駅までいいですか」「いいよ」。軽トラの荷台にザックを放り込み、ノロノロ軽トラで
    4分、あっという間に道の駅。「気をつけてな」。じいさんと別れ、歩き出す。

     1kmほどで長野市に入る。松本から長野までほんとに歩いてきたらしい。天気は快晴春霞。嬉しくなって橋の
    たもとで写真なぞ撮る。春空の穏やかな空気の下、鼻歌まじりにのんびり進む。やはり道行く車から、時々手を
    振られる。えらい歓待されてるなあ。なんでだろう。

     明治橋を渡り、村山のローソンを過ぎた所、「おーい!」。呼ぶ声に振り向くと、反対車線に黒塗りの車、そこ
    からスーツを着た40くらいの兄さんが手を振っている。何だろう。そのスジの方だろうか。何かわるいことした
    かなあ。どきどき。こんなのにたかってもカネはないぞ。兄さん、車道を渡って駆け寄ってくるなり、「歩いて日本
    一周の人だよね。昨日のニュースで見たんだ。18日に松本だから、今日はこの辺りにいるんじゃないかと思って
    ね。見たら激励しようと思ってたんだ。あ、私は手前の信州新町の町長なんだ。これから会合で長野へ行くんだ
    けど、会えてよかった。歩こうなんて、すばらしい志だね。是非達成してくださいね。それじゃあ!」
     握手をすると、町長さんは車に飛び乗り、手を振って去って行った。まるで台風みたいだったが、熱い町長さんだ。
    あんな町長がいるなら、町も元気になるだろうな、と思う。嬉しい応援だ。そして、謎も解けた。今日はやけに
    手を振ってもらえると思ったが、出発の様子が昨日のABNの夕方のニュースで流れたのだった。なるほど。

     16時、両郡橋で犀川を渡り、ロックシェッドをくぐると、前方が開け、北信の山々が見えてきた。善光寺平(長野市
    一帯の平野をこう呼ぶ)に出てきたのだ。ほんとうに松本から歩いてきた。予定通りとはいえ、自分に感激。
     しかし、その感激もつかの間、疲労が一気に吹き出す。肩痛い、足の裏痛い、体が鉛だ。一歩、一歩、のろのろ
    進む。

     残り6kmに3時間近く費やし、安茂里にある、大学の自転車競技部の後輩、佐藤のアパートへ。家主が戻るまで
    の30分ほど、玄関先で呆ける。

     「こんばんわ−、ほんとに歩いてきましたねー」。佐藤が帰ってきたのでアパートに上がる。しかしフラフラ、ヘロヘロ
    だ。メシを作ってもらい、風呂をさっと浴びればもう撃沈。明日は休みだ−。


  1999年04月20日   長野県大岡村(道の駅大岡)→長野県長野市安茂里(後輩のアパート)  晴れ|曇り  30km

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