再構成版 日本一周徒ほほな旅 

         第5回:人の家、トイレ、そして旅館。



     4月25日。ここは快適快眠。7時近くまで寝る。余裕ぶっこきでパスタをゆでる。メシのあとは、出発前に
    手紙をくれた方々へ郵便メールを書く。10時になりようやく出発。すぐに千曲川を渡ると、新潟県!
    新しい土地に旅気分も盛り上がる、鼻歌も出る、のだが天気は雨。郵便局で手紙を出したあとは、もくもく
    と歩く。津南は温泉が多いらしく、温泉の看板がたびたび出てくるが、雨降りなので今日は夕方まで我慢
    しよう。津南の町中を抜け、道端のおじさんに聞いた国道沿いのコインランドリーに到着。洗濯は、Tシャツと
    パンツと靴下は毎日手洗いして、ザックにくくりつけ、歩いている間に乾いてく、というサイクルなのだが、
    ジャージなどの大物はキャンプ停滞時かコインランドリー使用かになる。洗濯中は日記など書きながらのん
    びり過ごす。
     洗濯終わり出発。その先の7-11でパンとおにぎりを買って遅い昼食。もう15時だ。そろそろ温泉に入りたい。
    国道から脇道に入る。越後田沢駅。木造で静かな駅舎。雨は激しい。最終はこの駅で駅寝かなあ。河岸段丘
    の台地を下ると信濃川。大きな橋で川を渡る。この辺りの信濃川は川幅広く、河原がないし、鉄橋も高いし、
    橋の下野宿には全く不向き。橋のたもとにちょっとした園地。屋根はないけど、ここにテント張るか・・・。その
    先、田んぼの真ん中に「ミオン中里」なる今風の温泉施設。巨大ザックは受付に預け、温泉へ。紅茶色透明の
    気持ちのいい湯で冷えた体を温める。
     上がって再び受付、ザックを受け取り荷物をつっこんでいると、「兄さん、どこから来たの?」。おじさんに
    声をかけられる。「松本からです。歩きです」「バックパッカーってやつですね。よかったら、今日はウチで
    泊まりませんか」。なんと!この悪天候に天の助け!この若月さんの車に乗せられ、ひと山越えた松代町
    の自宅へ連れていかれる。若月さんと奥さん、じいちゃんばあちゃんに歓待さればんごはん。野菜不足の
    体に野菜炒めがうまい。若月さん一家は歩く一家。歩け歩け大会などにも出ているそうな。松代町は、雪中
    鉄人レース(雪の障害物を乗り越え、雪道を松代城まで駆け上がる)を開催している町で、じいちゃんは84歳
    で出場、「全体350人くらいの275位だったかな」「じゃあ後ろにじいちゃんより若い人いっぱいいますね」「まあ
    よ、毎朝新聞配達で鍛えとるしな」。かっこええじいちゃんである。若月さんは時々旅人を拾ってくるらしい。
    ばあちゃんいわく「前はフランス人を泊めたのよ。言葉全然分からないんだけど、なぜか私が一番話が通じた
    のよ、不思議なもんでねぇ」。ばあちゃんと話し込むと時計は22時をまわっている。倉庫兼作業場の一部屋に
    ふとんを敷いていただき、快眠。ふとんは偉大だ。


     4月26日。お弁当におにぎりを作って頂き、若月さんちを出発。なだらかな山間地の谷間。谷をまたいで鯉
    のぼりが掛けられている。もうじき5月か。国道に出て、十日町へと戻る道。いきなり薬師トンネルは2km以上
    なうえに歩道のない2車線路。車は当然ぶっ飛ばしていく。壁際の一段高い狭い歩行スペースをそろそろ進む。
    トラックが来たら壁にへばりついてやり過ごす。こわいよお。なんとか通り抜けると続いて名ヶ山トンネル。トン
    ネルもういやや。見るとトンネル右側に旧道らしき道が続いている。これはええ。車は通れなくしてあるし、歩き
    だから少々の障害物は関係ない。谷川沿いの旧道を進む。道端や対岸には残雪。真冬は雪崩てきそうだ。
    道は谷に沿ってゆるやかに左カーブ、と、前方をふさぐ土砂崩れ・・・。路面を覆い尽くす土砂と岩。岩は自分より
    軽くでかい。乗り越えていけなくもないけど、今は絶賛雪解け中だし、乗り越えた先にもっとひどいのがあったら・・・
    おとなしく来た道戻り、トンネル行。
     十日町の平野に出てきた。すでに昼。信濃川の河原に運動場。ベンチにてお弁当のおにぎりをほおばる。
    水道あるしテント張るにはいいけどまだ昼。町中へ入り、7-11で封筒を買い、郵便局でここまでの日記をgaliyaに
    発送。道の駅へ向かい、パンフレット物色し温泉とキャンプ場を漁る。国道252号に復帰し、見覚えのある田園の
    道を進む。晴れていた空が曇りだす16時、下条温泉みよしの湯へ。黄色透明のこぢんまりした温泉。受付のおば
    ちゃんと話す。キャンプ場は30分くらい先らしく、道を教えてくれる。
     下条駅の先で国道をそれ、県道178号へ。集落をすぐに抜けると、まわりは田んぼ、ゆるやかに登る道の行く
    手は緑の丘。道は一応2車線だが、この先にキャンプ場とか公園とかいう雰囲気は皆無。やがて丘が道の両側に
    なるところ、左の丘に上がる道と「中央公園」の看板。ぼろいコンクリート舗装路を上る。「中央」と名乗ってはいる
    が公園と言うより田舎の山。丘の頂上に平地がありそこがキャンプ場。設備は水道とトイレの最低限。しかし、水道
    は止められているし、トイレは雪囲いで入口が塞がれている。冬季閉鎖だ。そりゃそうだ、こんな時期にノコノコと
    キャンプに来る物好きは普通いない。おまけに雨がそぼ降ってきた。雪囲いの隙間からトイレに入ると、中は意外
    と広いしきれいに掃除してある。テントを広げるとジャストサイズ。水は3Lほど持っているので問題ない。落ち着く
    トイレで心静かに夜を過ごす。


    


     4月27日。雨はやんだ。トイレの水も止められているので、広場の端っこに穴を掘り、青空トイレ。
    スコップの初仕事。水がなくなったので、丘の麓へ。川の水しかないかなあ。と、下りた所に神社、
    手水にどこからか引いた水がどばどば流れている。一口飲む。合格。ペットボトルに汲んでキャンプ
    場へ戻る。
     支度して8時半出発。今日は山を越えて小出町方面へ向かう。まずは県道178号の続き。丘に挟ま
    れたゆるやかな谷間。こんな場所でもしっかり2車線路なのはさすが角栄さんか。
     1時間と少しで十日町市最後の二子集落。道端のじいさんに話しかけられる。「北海道まで行くんか、
    ワシの息子も昔な、自転車で日本一周したんや。今日はどこまで?小出?この先は道わるいけど、
    国道には出られるから気つけてな」。
     そのまま道は集落のはずれ、峠のような場所へ。しかし、そこで舗装路終わる(汗)いや、じいさんは
    「道わるい」言うたけど、道ないじゃん・・・、とよく見ると道の延長線上の草むらに道らしきものが続いて
    いる。突入。人以上、軽トラぎりぎりサイズの怪しい道型が森の奥へ続く。昔からの道のようだ。しかし
    道幅はあるものの、泥でぐちゃぐちゃ。大丈夫なんか??
     しばらく進むと森が切れ、10mくらい下に舗装路が見える。続きの道らしい。林の斜面を突っ切って舗
    装路に降り立つ。ちょうど山菜採りのおばちゃん達が歩いていて、突然山から出てきた巨大ザックの
    兄ちゃんに驚く。舗装路は木の疎らな斜面をつづら折りに下っていく。斜面には工事の跡、どうやら地滑
    りを起こした場所を治したものらしい。
     下りきって小さな川を渡ると分かれ道。ここが山ノ相川という集落のようだが家も人気もない。廃村
    のようだ。県道58号になり、細い山道で峠越え。道端にはここにも残雪。峠を越えて急坂下るとようやく
    国道252号。ちょっとした冒険な近道も徒ほほならでは。
     がら空きの田舎道2車線国道をしばらく行く。原の郵便局。建物の前で座り込んで休む。と、郵便局の
    お姉さんが「どこからですか?お茶いれましょうか?」きれいなお姉さんとティータイム(笑)。ここの前は
    岡谷市の郵便局にいたというお姉さんに、タオルとティッシュと元気を頂く。昼も過ぎたので、その先の
    田舎商店でパンを買う。店のおばちゃん「どこから来たん?自転車?なに、歩いて!」。それを聞いた
    別のおばちゃん「そりゃすごいな、じゃあ、お腹も減るからこのサンドイッチ持ってきな」。さらに進んで
    堀之内の町に入っていく。道端のおばちゃん、今度は水をくれる。いいぞ堀之内。なんか親切だ。
     16時、小出の駅。へばってきた。町中のスーパーで食料買い出し、今日の宿、道の駅ゆのたにへ。
    軒下ベンチでぜいたくにもスーパーのとんかつ弁当500円とまいたけを入れたスープ。建物の裏手へ
    まわり、テントを張るともう眠い。20時就寝。


     4月28日。テントをたたみ、軒下ベンチで朝メシ。やってくる人には「おはようございます」とあいさつし
    て怪しい者ではないことをアピールするのだが反応が冷たい。ここはさっさと出よう。8時20分出発。
     ひとまず小出の町へ戻る。昨日コインランドリーの場所は聞いておいたのだが、なんとなくパスで国道
    252号の続きへ。
     当初は日本海へ出て海沿いを北上するのが基本、と思っていたのだが、人と同じはツマラナイ、ので
    山へ分け入り、只見線沿いの温泉に入りまくるツアーに変更である。しかし。国道17号から曲がってすぐ
    の電光掲示板には「国道252号冬季閉鎖中」・・・。そりゃあそうや、名だたる豪雪地帯の田舎国道の峠
    が4月に開いとるわけないじゃん・・・。まあいいや、歩きながら考えよう、とか思ったハナから7-11に吸い
    込まれ、しばし漫画の立ち読み(笑)。
     豪雪の山の麓のせいか、山からの風が冷たい。道々出てくるバス停の小屋で寒さをしのいで休憩。昼前
    からすでに足痛い。午後になり、守門村の中心を抜ける頃にはすっかりペースダウン。足にきだした。
     スノーシェッドに覆われた池ノ峠を1歩、1歩、のろのろ登る。いよいよきつい。登った先には池と広場、
    テント張れそうだがまだ15時。とりあえず足を癒やすには温泉だ。入広瀬村の中心部に入り、川を渡って
    寿和温泉へ。雨降ってきた。温泉1000円は高額だが、お湯はいい。疲れがお湯にしみ出ていく。
     露天風呂で呆けること2時間。雨そぼ降り、暗くなってきた。暗い気分でどこにテント張ろうかなあ、村の
    中ではそうそう張れないし、さっきの峠の広場まで戻るのめんどくさいし、いややなぁ・・・。
     と、ロビーに出てきたところで、「素泊まり有り」の表示が目にとまる。温泉裏手の村営施設らしい。素泊
    まりやったら5000円くらいかなあ。今日の気分なら出してもいいなあ。ロビーへ。「素泊まりっていくらです
    か?」「5500円ですけど」(うわ、微妙だ)「おひとりですか、それだと7000円になりますが。部屋はあります
    けど」(ななせんえん!!たけーー!しかもひとりは値上がりするんかい・・・ううーん、どうしよう・・・)
     「・・・わかりました、お願いします。今手持ち2000円くらいなんで、明日の朝郵便局で下ろしてきますけど
    いいですか」「ええどうぞ」。案内された宿は村営で小ぎれい。普通の旅館である。タタミである。フトンで
    ある。屋根がある。うっほほ〜〜い!!!はしゃぎすぎである。あとは温泉に入りまくり、ふとんに転がり
    まくって夜は更ける。


  1999年04月25日   栄村森    →新潟県松代町孟地(若月さん宅)       晴れ|曇り   17km+車18km
  1999年04月26日   松代町孟地  →十日町市下条(下条中央公園キャンプ場)  晴れ|曇り  20km
  1999年04月27日   十日町市下条→湯之谷村吉田(道の駅ゆのたに)       晴れ/雨    23km
  1999年04月28日   湯之谷村吉田→入広瀬村平野又(ひめさゆり荘)        晴れ|曇り   25km

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