再構成版 日本一周徒ほほな旅 

         第6回:温泉入りまくり、のはずが。



     4月29日。宿泊まりなのでゆっくり寝ていればいいいものだが、習性により5時には目が覚める。
    そして自動的にトイレ。二度寝して7時半、朝風呂を浴び、ポットにサトウののごはんを突っ込んで
    温める。ゴロゴロしているうちに9時を過ぎた。空荷で郵便局へ行き、宿代を引き出す。9時40分出発。
    ヤマザキショップで缶詰2個とチョコ、パンを買う。村をはずれると道の両側に山が迫る。久々の晴れ
    で五月色の空だが風はいよいよ冷たい。
     1時間ほど歩くと柿の木。只見線の駅がある。駅と言っても小さい板きれホームがあるだけ。列車も
    来ない。ホームに腰を下ろして休んでいると畑仕事のばあちゃんがやってきて長話。アメリカで大学生
    をやっている孫の話を聞く。さらに1時間ほどで大白川に12時到着。ここは駅舎もあるので待合室に
    陣取る。曇ってきた。やってくるおじさんに「兄さん、登山か?」と聞かれるので「ええ、まあ」と曖昧な
    返事を返す。「(山の)上はみぞれ降っとるからな、気をつけてな」。
     ここから先が問題の冬季閉鎖区間。山を越えて只見の町まで33kmの無人地帯。今みぞれってこと
    は夜は雪かもなぁ・・・。突撃して遭難したらえらいこっちゃやなぁ・・・。などと考えてぼんやりするうちに
    只見行きの列車がやってきたので、そそくさと乗車(あっさり妥協)。ディーゼルカーはエンジンを唸らせ
    て坂を上り国境の長いトンネルを越える。20分ほどで只見の駅へ降り立つ。
     降りた人びとはあっという間にいなくなり、自分だけ駅に取り残される。重い曇り空で空も空気も3月に
    逆戻り。寒々しい町を歩き出す。国道に出る。2車線快走の道だが冬季閉鎖のせいで車もほとんど走っ
    てこない。人気もない。宿屋で回復して足だけは元気だ。ずんずん進む。
     1時間半ほどで蒲生の集落。目の前に鋭角三角の蒲生山がそびえる。かっこええ山だ。が、登る時間
    帯ではない。只見線の駅で山を見上げて一休み。ホームには屋根付きベンチ。野宿には寒そうなので
    先へ進む。さて、今夜はどこで寝るか。田舎なら適当な河原でテント張ればいいや、と思っていたのだが
    只見川は電源開発されたダムの川。本流は残らずダム湖で河原なんぞない。これは困った。
     塩沢の商店でパン2個とラーメン1袋を買う。腹減った。ダム湖沿いの国道を行くと、ダム湖に注ぐ沢を
    渡る橋、その手前に沢に降りていく道。降りた先は広い河原。17時。これはいい、ここで野営だ。
     川の水で茶を沸かし米を炊く。満月快晴。今夜は冷えそうだ。この旅初の野営(キャンプじゃなく)で
    なかなかの満足。川のせせらぐ音を枕におやすみなさい。


     4月30日。寒い。夜中に何度も目が覚める。沢に沿って寒風がテントに吹き付ける。寒い。カッパを着て
    寝袋にくるまるが、夏用ペラペラ封筒型寝袋ではちっとも暖が取れない。6時、薄暗いが我慢の限界。湯を
    沸かしカップ麺をすする。7時過ぎ、日が出てくるとようやく寒いのなくなる。太陽は偉大だ。しかし、昨日
    山越えしなくてよかったな、真面目に遭難できとるな、これ。テントと寝袋を日干しして、8時に出発。
     鉄道を投入してまで只見に入ったのは、この道沿いをゆっくり探索したことがないのと(夜中に車で爆走
    したことは数回あり)、地元民向けな小さい温泉が点在しており、それに片っ端から入ってやろうという目論
    見からである。1j時間ほどで滝沢の集落。地図の温泉記号を元に湯屋を探す。と、国道から下った所に
    「滝沢温泉」と書いた小屋。さあ、朝風呂だ、と勇んで近づく、が、人気がない。戸は開いているが中の湯
    船は空っぽ。営業時間外か・・・、仕方ない。1時間半ほどで大塩集落。ここにも温泉があるようだ。国道を
    きょろきょろしながら進むが、それらしい建物は見当たらない。そのうちに集落を外れてしまった。道を聞く
    人もおらず、戻るのも手間なのでそのまま進む。11時半、橋立。国道沿いに湯小屋!しかし、施錠されて
    入れない。地元民専用なのだろうか。相変わらず人っ子ひとりいない。3連敗で気分が下がる。川の向こう
    に湯倉温泉とおぼしき湯小屋が見える。少し先から橋を渡っていくようだが、行って閉まっとったら疲れ倍増
    なのでパス。13時半、川口。国道の橋から下をのぞくと、湯小屋発見!回り道でたどり着くと、ここも施錠・・・。
    完全にへこむ。温泉入りまくりじゃないじゃーん。国道に戻る。川口は少し大きい集落。郵便局があったので、
    窓口へ。「この辺で入れる温泉ありませんか?」。すると局員さん「どっかあったかなあ」「この時間でやってる
    とこか〜」「文伍さんはどうや?」「いっぺん電話したるわ」。電話の結果、今からでも入れると言う。地図も書
    いてもらい、局員さんにお礼を述べて出発。国道252号から400号に入り、田舎道を30分ほど歩くと、民宿文伍。
     「さっきの電話の人だね。歩き?それは、ゆっくりしていきなさい」。おじさんに迎えられ、早速風呂へ。露天
    風呂からは田んぼと山を眺める。吹き渡る風が心地よい。
     1時間ほどくつろいだ。さあ、沼沢湖への山登り、温泉パワーで足も復活。冬はスキー場になる斜面を、急坂
    を登る。1歩1歩踏みしめる。16時半、1j時間の登りで峠。登った先は高原になっている。ゆるやかな下り坂を
    降りていくと、脇道から耕運機が出てきた。と、じいさんが降りてきて「耕運機乗ってかまし」。なんと!耕運機
    をヒッチハイクだ。わーい!荷台に荷物ごと乗せてもらう。エンジン音でかい。振動がたがた。でも楽しい。
    高原の集落がじいさんの家だが、「下るところまで乗せてやろう」、と耕運機は登り坂へ。歩く速度とあまり変わ
    らない。小さな峠のてっぺんで下ろしてもらう。じいさんは器用に耕運機を転回すると、軽やかに峠を下って
    いった。じいさんありがとー。
     30分ほど下ると、山に囲まれた湖が見えてきた。18時、沼沢湖。ここは、地図で見て前から来てみたかった
    所。すぐ北を流れる只見川から200mほどの山の上に広がる湖はカルデラ湖、つまり火山由来の湖。火山地形
    大好きなので、探索したいとかねがね思っていたのだ。がすで薄暗い。キャンプ場は芝生敷きで気持ちいい。
    快適だ。湖の向こうの山に夕陽が沈む。ランタンに火をともし、パスタをゆで、食事としゃれ込む。ようやく遊びに
    来た気分だ。月が出てきた。月あかりの湖畔を散歩。きれいだ。心に余裕ができる。すばらしい景色とともに
    芝生テントで快眠。


     5月1日。快眠で7時起き。晴れだ。気を遣って撤収する必要がないのはすばらしい。寝袋を干しつつ米を炊く。
    余裕があるのでセルフタイマー。

      

     日常の一コマやな。目の前は青い湖。周囲7km、水深は96mもあるらしい。対岸の岩ごつごつな山は溶岩ドーム
    らしい。景色を愛でながらゆっくり朝食。9時になったので管理棟へ行き、キャンプ代を支払い、こいんらんどりーで
    ジャージなど大物を洗濯。待ち時間をテントに転がって過ごす。キャンプに来たって感じだ。
     全てを片付け11時出発。道は只見川へ向かって急坂を下る。下りの最後に下り坂トンネル。しかし、トンネルの
    出口が見えない。???普通トンネルって真ん中が高くて出入り口が低いはず。でないと雨で水没してしまう。入っ
    て行くと急勾配で真ん中が低く、そこから出口に向かって急な登り坂。いいのかこんな構造?しかし、真ん中まで
    進むと謎が解けた。排水用?の横穴が川に向かって開いている。設計不良ではなかった&真上を通る発電所の
    水道管をよけるためにこうなっているらしい。珍しいものを見た。
     狭い県道を進み、13時に宮下の集落。駅前に風情ある食堂があり心惹かれるが、ここは我慢でスーパーでパンを
    買い駅の待合室で食う。今日は大学院の仲間が襲撃にやってくる予定である。電話をかけるとまだ新潟らしい。
     国道を進むが、肩が痛い。疲れが足にも来だした。昨日30km歩いたせいか。ペース上がらず。柳津町に入る。時刻
    は17時近く。連中、そろそろかなあ。と、「何やってんのー」。声の方を見上げると、土手の上から小学生の男の子
    がこっちを見下ろしている。「ああ、兄さんはなー、歩いて旅して・・・」「何やってんのー」土手の草むらからすずき、
    あおやぎ、いおきの三氏が顔を出す。隠れておどかそうと思っていた所を、小学生にツッこまれたらしい。初日の
    明科の温泉以来の再会である。「今日はどこまで行くん?」「柳津の森林公園のつもりやけど、まだ2時間くらいかか
    るかなあ」「だいぶあるなあ」「今朝泊まった沼沢湖のキャンプ場はよかったで」「じゃあそこにしよ」
     ということですずきの車に回収されて沼沢湖へ逆戻り。6時間の労働をたった20分で巻き戻す。キャンプ場、管理棟
    へ出向くと、管理人の兄さん「あれ?今朝の歩きの人だよね」「はい、柳津まで行って回収されて巻き戻してきました」
    と答えたら大笑いされた。
     さあ、キャンプだ。設営し、車で玉梨温泉へ。やっと温泉にありつく。戻って焼肉とビールでかんぱーい!!にくにく
    くうくうのむのむ。しかし・・・貧乏食生活がいきなり肉とビールになって胃がびっくり。ぐるじいいいーーー。のたうち
    まわったあげく、ワイルドリバース(悲)。ああ、おにくとおさけがあぁぁぁ。どうやら肉体も精神も酷使していたらしい。
    寒気もするのでたき火であったまる。「だいぶ疲れとるなあ」「みんなの顔見てちょっと安心しましたね」「何ならいっぺ
    ん松本帰って仕切り直すか?」いおき氏が心配してくれるが、「そこまで追い詰められてないですし、帰ったら歩く気
    なくなりそうやからやめときます。ぼちぼち行きますわ」「そうか、ぼちぼちな」
    

  1999年04月29日   入広瀬村平野又→福島県只見町(只子沢の河原)               晴れ/曇り  20km+鉄道
  1999年04月30日   只見町      →金山町沼沢(沼沢湖畔キャンプ場)             晴れ|曇り  30km
  1999年05月01日   金山町沼沢   →柳津町柳津 → 金山町沼沢(沼沢湖畔キャンプ場)  晴れ       15km+車15km



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