再構成版 日本一周徒ほほな旅 

         第8話:山形に入りて、旅心定まりぬ。




     5月5日。昨夜来の荒れた天気が続いている。雨風。ぐだぐだと6時半まで寝袋で粘る。天気悪い
    のやだなあ。しかし歩きたい気分ではある。米を炊いてメシ。食い終わると8時。片付け始めると、
    時々晴れ間が出る。よしよし。しかし3日も住んだせいで、荷物ちっとも片付かない。10時にようやく
    歩き出す。森林公園の山を下るがむくむく雲が湧き土砂降りに。里に出たところの公民館でしばし
    雨宿り。30分ほどで雨上がる。国道に出る。会津坂下のインターチェンジの7-11に11時半。体は
    軽い。パンを買って食べ、国道49号の峠を登る、とまたも土砂降り。登り切ったところにJR只見線
    の塔寺駅。待合室に逃げ込む。風雨いよいよ激しいしなかなか止まない。これから向かう東の会津
    盆地の方は晴れているのだが・・・。1時間ほどボンヤリ過ごすが雨やまない。そこに只見線の列車
    がやってきた。吸い込まれる。妥協ばっかだ。1駅乗って会津坂下駅。こっちは快晴だ。時計は14時。
    風がきつくてちょっと寒い。田んぼの中の県道を北上。左前方には飯豊の山々が白く輝く。しかし、
    道はえんえん田んぼの真ん中で飽きてくる。肉体が元気なのをいいことに、時速4kmでぶっ飛ばす。
     おかげで17時前に喜多方駅に到着。足の裏は無事だがふくらはぎがピキピキだ。3日もごろごろ
    してたせいだな。さて、喜多方はラーメンだが、昨日もその前も食べたのでぜいたくは敵。野宿する
    には郊外へ出たい。駅でパンフレットを物色。郊外の道の駅が温泉付きらしいがそこまで10km。今
    から歩いてったらちょうど閉店時間やん。と目の前にその温泉へ行くバスが現れる。乗りますか?
    いえす。また妥協。20分ほどで道の駅。軒下広いし野宿には快適そう。まずは喜多方ではない袋
    ラーメンで夕食。そして温泉へ突入。21時の閉店までしっかり粘る。外すっかり寒い。さてどこにテント
    張ろうかなあ、と多目的トイレが目にとまる。カラカラ、ガチャ。意外と広くて快適かも。床に銀マットを
    敷き、寝袋にくるまる。意外と寒くない。おやすみ。


     5月6日。5時起き。そのままトイレを済ませ、軒下のベンチへ移動。米を炊き、マグロ缶をおかずに
    朝食。 

     
     
     車中泊していたおじさんと話す。温泉巡りしてきて、今日は東京まで帰るという。7時半出発。
  
     昨日はぶっ飛ばしたので、今日はゆっくり歩いて行く。9時、廃線跡の熱塩駅。

     
     

     駅舎と除雪車。ボタン桜が花を添える。駅前の商店で桃缶とトマトを買い、水ももらう。道は前方の
    山に向かって田園の中をダラダラ登る。山形県境は大峠。旧道もあって歩くならそっちなのだろうが
    距離は長いし冬季閉鎖だし土砂崩れもあると聞いていたので、新道のトンネルの方へ。日中ダム手前
    で2車線の高規格バイパスに上る。車設計の道は坂がきつい。ダムの休憩所で30分ほど休む。11時、
    バイパスのトンネル群、歩道完備で意外と歩きやすい、がここを歩く人って年間数人もいるのか?と
    思うと無駄な公共事業な気もしてくる。谷を下る風が冷たくきつい。道は広くてまっすぐなので、歩きで
    はちっとも進んでいかない。90分かかって県境の大峠トンネル入り口に到着。今日のメインイベント、
    歩道の狭い4kmのトンネル歩き。1時間は地中の穴の中。しかし長い。中程に非常用の方向変換スペ
    ースあり、少し休もう、とザックを転がすと、サイドに差してあった傘がバキッと折れる。しもた、油断した。
    もらったばっかなのに。ふと見上げると壁面に監視カメラ。映ってんのかなあ。手など振ってみる。こんな
    所で座り込んでたら不審者だ。歩き出す。70分かかってトンネル踏破。

     

     山形県だ。非日常の地域。山形に入りて旅心定まりぬ。

     時計14時。電話ボックスがある。ちょうどいい時間なのでFM長野に電話する。

     実は管理人galiyaのつながりで、FM長野のラジオ番組に毎週電話出演することになった。放送は土曜
    なので、録音する木曜日の15時前後に、たにぐうが電話をかけ、パーソナリティの田中さんにここ1週間
    の様子を話す、という企画である。録音作業にかなり手間取り、1時間近くかかって収録完了。15時よう
    やく出発。谷を吹き上がる風が冷たい。下りなのでどんどん歩くが、足よりも肩が痛い。17時半、道の駅
    田沢。閉店間際の店でこんにゃく串にありつく。18時過ぎると店の人も消える。しかし寒い。どこも吹きっ
    さらしで風を遮るものがない。そして目に付く、ここは独立建物型の多目的トイレ。またか。しかし中は風
    を防いで暖かい。2晩続けてトイレは気分的につらいが暖房付きなのでここで就寝。


     5月7日。5時起き。とっとと出る。風はやんだ。東屋があったのでそこで炊事。もうトイレはやめよう。てか
    迷惑だし、浮浪者と変わらん。8時出発。すぐに国道から分かれ、丘を登る県道へ。と、カーブのガードレ
    ールに傘が2本引っかかっている。しかもどちらも使えるモノ。どなたのか分からんが、ここはわらしべ的に
    (おい)交換させていただきます。大きそうな赤い方と交換し、ザックにくくりつけた銀マットに差す。ここなら
    ザックを下ろすときに折ることはなかろう。
     丘を下ると平地に出てきた。道ばたのわき水で給水。田んぼには水が張られ、田植えが始まっている。
    行く手には朝日連峰、振り返れば飯豊、雪山が遠くに広がる。ニッポンの5月だ。気分も上向く。
     しかし、行けども行けども田んぼしかない。飽きてきた。店もない。お腹すいたなあ。ようやく見つけた、
    小さい集落の小さい商店。パンが1個しか売ってないので、リッツを1箱買う。疲れてきた。時計は13時過ぎ。
    先はまだ長い。と、後ろからきたトラックが停まる。運転席の兄ちゃん「乗ってくか?」。ありがたく助手席へ。
    米沢から酒の配達中だという兄ちゃん、「歩きなのか?チャレンジャーやなー」と感心される。川西町の中心
    あたり、ということで小松駅で降ろしてもらう。と、ザックに付けている腰ベルトがない。どうやらトラックに
    乗るとき落としたっぽい。「落としてきた?なら拾いにこか」。兄ちゃん気前よく来た道を戻ってくれる。やはり
    道ばたにベルト。回収して再び駅。「気をつけてな。落とし物にも!」
     さて、町だ。近くのスーパーで買い出し。甘いもの食べたい。ゼリーなど買う。川西温泉へ。3日分の疲れが
    吹き出て体がふやける。しばらく動けない。ようやく上がりロビーで荷物をまとめていると「どこから来た?」と
    おばちゃんたちに囲まれる。「兄さん学生?どこから来た?実家は?」三重県出身だと答えると、1人のおば
    ちゃん「息子は今鈴鹿で働いてるんよ」。息子さんトーク。
     さて、回復した。細い県道で小さい峠を越える。道の駅いいでの裏手、丘の上に松岡公園。無料のキャンプ
    場だが、見た目タダの芝生広場に、トイレと炊事場。誰もいなくて静かで快適だが虫が多い。レトルトカレー
    食ってぐっすり寝る。


     5月8日。5時半起き。夜中に少し雨が降ったようで寒い。道の駅のきれいなトイレで用を足し、テントにもぐっ
    て米を炊く。ふりかけごはんに味噌汁。晴れてきたので寝袋を干す。8時に出発。
     白川を渡ると飯豊町の中心部、と言っても田園広がるのどかな町。県道10号を北上。田園の中に屋敷林を
    伴った家が散在。この萩生周辺は散居村。富山県の砺波市が有名だけどこんな所にもあったのね。晴れわ
    たる空の下、気分は爽快。地図(ツーリングマップル。キャンプ場や温泉が詳しい)このまま山沿いに県道を
    北上すれば、いくつかキャンプ場があるようなので、どれかを目指そう。しかし、カセットガスが残り少ないし、
    昨夜ヘッドランプの豆電球が切れたので、長井の市街へ出るべく10号を東へ向かう。12時、長井市街の県道
    は量販店ロード。郵便局で6000円おろし、ホームセンターに寄る。豆電球、電池、カセットコンロ用ガス缶3本
    セットを購入。別で書くけど、調理用コンロは、キャンプ用ガスではなく、カセットコンロ用ガスが使えるものを
    使用している。安いのと、どこでも売ってるから。店の人にコインランドリーがないか聞くが、この町にはない
    らしい。沼沢湖以来1週間手洗い洗濯なので、そろそろ大物を洗いたいところだが仕方ない。続いて現れた
    靴流通センターへ。長野で買った運動靴が早くもヘタってきた。考えた末、2047円のスニーカーを買ってみる。
    しばらく2足態勢で様子を見よう。さらに進むと町中に入り、ダイエーでバナナと弁当を買い(730円也)、バス
    センターの待合所のベンチで食べる。昼はロールパンばかりなのでちょっとぜいたく。14時、出発。しかし今日
    は肩が痛い。ザックが肩に食い込む。ふー。先は長い。県道は9号になり田んぼの中。へばって道端に座り
    こんでいるところ、通りがかりのおばちゃんと長話。聞けばおばちゃんも歩く人で、年2回、ウォーキング大会
    で1日40km歩くのだとか、そのため毎日歩いて鍛えているという。
     ふーふー言いながらさらに歩き、17時鮎貝の町。この町のキャンプ場に泊まるのだが手持ちの地図のキャ
    ンプ場マーク、実際には町のど真ん中。ツーリングマップルはけっこうアバウト。しかし、どこだろう?見当つか
    ないので、ヤマザキショップに入り、パンと牛乳を買いつつ、店のおばちゃんに場所を聞く。「教育の森?言葉
    じゃわかりにくいから、地図書いたげるわ」。手書きの地図を頼りに、2kmほど、町の外れに鮎貝小学校。その
    裏山みたいな所を入っていくと、そこが鮎貝教育の森だった。山の斜面を切り開いて気持ちよさそうな広場。
    上の方には立派な屋根付き野外ステージあり。公園を見下ろす感じがよいのでここにテントを張る。しかし
    バテバテ。明日は30kmほど先の大江町を目指すのだが、そんなに歩けるのか?と思うくらいバテバテ。メシ
    作る気力も湧いてこない。とりあえずパンとバナナを食う。いよいよ動きたくない。時計はまだ19時過ぎ。
    だめだ。ねむい。おやすみ。


     5月9日。爆睡。起きると6時。肩はだいぶ楽になっている。何とか歩けそうな感じ。テントから這い出し、
    ステージの端に腰掛けて米を炊く。ラジオをつける。今日は日曜日か。ということは出発から3週間たった
    のか。歩き始めは、出発から○日、とか毎日思っていたが、ここ数日すっかり忘れていた。ようやく旅心
    定まった言うことか。散歩にやってきたおばちゃんに、「ここでテント張ったの?寒くなかったかね」と心配
    される。8時過ぎ出発。今日も晴れだ。地図によると、ここから大江町までは最上川に沿って山間を進むよ
    うだ。川の右岸に国道、左岸に県道。20km先の朝日町の中心が国道沿い、昼飯を買うには国道のが良
    さそうだ。
     田舎道から橋を渡り、国道287号に乗る。国道言うても交通量は少ない。少し歩くと、防火水槽の掃除を
    していたおじさん達に捕まり、激励を受ける。だんだん暑くなってきた。最上川を左に見下ろしながら、ぼち
    ぼち歩く。朝日町まで18km。景色変わらずだんだん飽きてくる。2時間ほど行くと、立派な吊り橋。

     

     なかなか風情がある。荷物置いて対岸まで往復。ちょっとしたアトラクション。気を取り直す。お腹へって
    きた。さらに3時間ほど歩き、やっと朝日町。はらへった。個人商店でパン3個とあずきオレ買って食す。3個
    めとあずきオレは食い過ぎた。スーパーで今夜のおかずを購入(487円なり)。14時半出発。あと10km。3時
    間の労働だ。2時間ほどで大江町に入る。道ばたの民家から出てきたおばちゃん、自分を見るなり、「お茶
    飲んできましょ」。わーい。家にあがりこむ。「どこから来たの?長野県!歩いてきたのかい」。そこにおばち
    ゃんの息子夫婦もやってきて、にぎやかにお茶を飲みながら旅の話など。「今は山菜の季節だからね」と、
    茹でたて今朝採りのコゴミをもらう。ごはんのおともだ。ふりかけ人生にはかなりうれしい。
     18時、礼を述べ出発。ほどなく今日の寝床、道の駅おおえ。東屋はないが、草地のちょっとした広場がある。
    まずはベンチで米を炊き、レトルト親子丼にさっき買った玉子豆腐、もらったコゴミに醤油を垂らし、充実の晩
    飯。道の駅は温泉付き、裏手の柏陵荘へ。ここは舟唄温泉と左巻温泉の2本の源泉を使用。左巻は透明な
    温泉だが、舟唄は強烈。濃灰色の濃厚な湯がガツンと来る。これは効く。長湯してると、30代くらいの兄さん
    に「どこからですか?」と声をかけられる。「長野から歩いてきたんですわ」「僕も8年前だけどフランスを何ヶ
    月かかけて旅したんですよ」旅人同士、で意気投合。21時の閉店まで長湯し、さっきの草地にテントを張り
    ながら兄さんと長話。「洗濯はどうしてます?」「シャツとパンツはレジ袋に洗剤少し入れて、水入れて手もみ
    洗いですわ。大物はコインランドリーが出てきたら洗うくらいですね」「長旅の洗濯は大変だよね。よかったら
    洗濯機貸すから、明日うちに寄っていかないかい?」。明日10時に左沢(あてらざわ)駅で落ち合う約束をし
    兄さんは帰宅。もう22時半。おやすみ。


     5月10日。時間に余裕があるので6時まで寝る。テントを片付け、草地に銀マット敷いてごはんとコゴミでメシ。
    8時頃、荷物満載のツーリングライダーが駐車場に入ってきた。と、こちらに気がつき近寄ってくる。「自転車?」
    「いや、歩きです」「バックパッカーですね」「兄さんは?」「愛知から。仕事やめて放浪中。5月中は東北をうろう
    ろして、6月には北海道へ渡るつもり。兄さんは?」「ぼちぼち歩いてって、夏は北海道かな。どっかでバイトも
    せなあかんし」「僕も富良野かどっかで働くつもり。またどっかで会うかもな」。30分ほど話した後、旅立つ彼を
    見送り、柏陵荘の朝風呂へ。濃厚温泉を1時間ほど満喫。9時半出発。20分ほどで大江町の中心、左沢。
     駅で待つとほどなく昨日の兄さん(石山さん、と言う)現れ、自宅にお邪魔。早速洗濯。洗濯槽がすぐに真っ黒。
    1週間の汚れはえげつない。「乾くまで干しとけばいいよ」の言葉に甘え、庭に干させてもらう。待ってる間、コー
    ヒー、そしてお昼ごはんまでごちそうになる。ウドの煮物おいしい。山菜の季節だ。「腹ごなしに散歩に行こう」
    と、町を見下ろす公園へ。
     「自分の町が一望で気に入ってるんですよ」という石山さん。フランス自転車旅行の後は、フランス外人部隊
    (外国人志願兵で組織されたフランス国軍)を受験したという。試験は落ちて入隊はならなかったそうだが、
    そのこぼれ話など聞く。「受けたのは話のネタになるかな、くらいのノリだったんだけど、やはり厳しかったね」
     石山さん家に戻り、洗濯物回収。もう15時。「気をつけて。よい旅を。」15kmほど先の道の駅河北を目指す。
    休養十分。田んぼの中の国道を時速4kmでぶっとばす。軽トラのおじさん、「昨日も歩いてるの見たで。どこから
    歩いてきた?長野?また遠い所から。気をつけてな」。声をかけてもらえるのはうれしい。18時半、道の駅。
    道の駅は何かしらベンチやら園地やらあってテントが張れるのだが、ここは狭いし、そのようなスペースがない。
    お腹は満たされているので、町中に戻って河北温泉。年季の入った建物はまもなく営業終了になるようだ。濃い
    黄色透明の湯。夕方で仕事帰りの地元のおっさんばかり。会話がすでに聞き取れない。1時間ほどのんびりし、
    道の駅へ戻る。軒下もないので建物の裏側に回って設営。川のそばで風が強い。21時半就寝。


  1999年05月05日   柳津町柳津   →喜多方市松山町(道の駅喜多の郷)          曇り/晴れ  27km+鉄道
  1999年05月06日   喜多方市松山町→山形県米沢市入田沢(道の駅田沢)           晴れ      28km
  1999年05月07日   米沢市入田沢  →飯豊町松原(松岡公園キャンプ場)           晴れ      22km+車6km
  1999年05月08日   飯豊町松原    →白鷹町鮎貝(鮎貝教育の森キャンプ場)         晴れ      22km
  1999年05月09日   白鷹町鮎貝    →大江町藤田(道の駅おおえ)                晴れ      27km
  1999年05月10日   大江町藤田    →河北町谷地(道の駅河北)                  晴れ/曇り 15km


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