再構成版 日本一周徒ほほな旅 

            〜プロローグ〜



     1998年、10月も終わりのある日。

     僕は、三重県の実家へと軽トラを走らせていた。

     時刻は、16時過ぎ。日は西に傾き、鈴鹿山脈の影が大きい。運転しながら、ぼんやり考える。

     1998年は、大学院の留年で幕を開けた。その前年、修士課程2年の僕は、論文を書くため、夏から秋に
    かけて、三重県伊賀と、滋賀県甲賀で大々的に方言の聞き取り調査(フィールドワーク)をおこなった。
    しかし、大量にデータを集めたものの、論文は1行たりとも書けないまま、クリスマスの締め切りを通過。
    自分に学問の閃きというか、才能がないことを思い知った。もともと就職は決まっていない。年が明け、
    身の振り方を考える。学問の世界は厳しい。ならば、何か違うことするか?迷ったが、もう1年だけ、修士を
    やることにした。ただし、親との約束で、お金を出してもらうのは、大学院2年までと決めていた。頼めば、
    もう1年は学費仕送りは出してくれるだろうが、それはナシだと思った。学費と生活費は自分で稼いで、
    そして修士論文を書いて大学院修了。これが今年の目標になった。

     1月末、後にこのHPの初代管理人となる、友人galiyaの紹介で、トラック運転手のアルバイトを始める。
    大型免許は後に取るのだが、とりあえず2t車メインで日銭を稼ぐ。3月は朝3時起きで新聞配達を3時間、
    6時から2時間半寝て、9時からは長年やっている不動産屋にて、大学新入生にアパートを案内紹介するバイト、
    17時からは5年続けている寿司屋で深夜12時まで働き、2j時間寝て新聞配達・・・。前期の学費を何とか
    調達。4月は再びトラックドライバー、5月からはローソンの配送トラック(店に弁当を配達するやつ)に配属。
    学校の単位は論文を残すだけなので、週1回だけ大学に顔を出す。おかげで9月末で、学費60万と生活費
    120万を稼ぎだした。
     かといって働きづめだったわけでもなく、教員試験と称して(←やる気ないじゃん)軽トラで北海道へ上陸
    したり。10月に入って仕事も一段落し、昨日までは毎年恒例の龍飛岬行きで、今日はおやじ様に軽トラを
    返却すべく、実家への帰り道なのである。

     そんなこの半年を、ぼんやり振り返る。

     そして、これから。これから2ヶ月で修士論文を書かねばならぬ。データは膨大にあるので、あとは学問的
    閃きを以て(と言うても、これがないんだが・・・)書くだけだ。書いた後は、未定である。教員試験には落ちた。
    勉強してないから当然だ。とりあえず、トラック運転手で稼ぎながら、先生の試験を受けようか?それとも、
    何とか非常勤講師の口を探して、先生の業界に潜り込んだ方が、チャンスがあるかもしれない。それをどこで?
    実家はイヤだなあ。長野県がいいけど、よそ者が入り込める気がしない。ここはいっちょう北海道か?!
    でも、もうちょっとブラブラするのもいいなあ。まだ25歳だし、30までに定職に就けばいいだろうから、あと5年、
    いや、一応保険かけて(どういう保険や)2〜3年は好きに使えるなあ。ここはひとつ、長い旅にでも出ようか。
    どこ行こうかなあ。海外、行ったことないなあ。ワーキングホリデーでオーストラリアとかかー。でも、外国は
    なんか自信ないな−。じゃあ日本かー。日本好きやからなー、おもしろいとこ、まだまだありそうやしなー、
    でも、自転車は競技やってきたから、自転車やったら簡単に日本一周できてまうなー。軽トラの旅はここ1年で
    結構やったし、バイクはまだやったことないけど、エンジン付きやと、それこそすぐ終わってしまいそうやなー。
    てなると、あとやってないのは歩くくらいかー・・・・・・










     「!」











        「ある、く?」










     ビリビリ来た。今でも、明確に覚えている。電気走った。








      「ある、く・・・・!」















     やべえ、何か思いついてまった。

     そう、歩くのはやってない。歩く。人力の究極。己の肉体だけで旅をする。これは、おもろい。
    やってる人、あんまり居なさそうや。そや、1年くらいで、歩いて日本一周や!日本縦断いうのは、何かで
    読んだことあるけど、ぐるっと歩いて元の所へ帰ってくる方が楽しそうだ。

     顔のニヤけが止まらない。これまでの学生生活でも、思いつきであほなこといろいろやっては来た。
    が、こいつは破格だ。規模が違いすぎる。でも、絶対おもろい。めっちゃわくわくする。わくわく膨張。わくわくの
    ビッグバンだ。

     右手には夕焼けと鈴鹿の山なみ。田園の道を進む軽トラ。


     ここから、すべてが始まった。要するに、思いつき(笑)


     (つづく)

  1998年10月31日   三重県四日市市付近  晴れ    軽トラにて  


                             一番上へ