北海道・前編  小学校に星が降る その1





   ざざーーん、ざーーん、ざーーん、ざざざーーん









     大間を出航した船は穏やかな「しょっぱい河」を進む。

     東北大陸は後ろに遠ざかり、行く手には北の大地が青々と横たわる。

     空は快晴、上も下も明るい青の世界。ここちよい潮風を受け、飽きもせず海と大地を眺める。

     左手遙かには、津軽半島・・・。










  ♪ごらんあれがたっぴみさき
       きたのはずれとぉ〜〜〜〜♪



     甲板に人が少ないのをいいことに、つい振り付け付きで熱唱(^^);;;;;; はたから見たら変な奴であることは
    まちがいない。




     2日前。金木町のキャンプ場を出て、龍飛岬へ向かった。金木からだと、北上して小泊に出て、竜泊ラインが
    早いのだが、このルートは2003年のバイク旅で使ったので、今回は基本の三厩経由に。山を越えて今別に出て、
    三厩から国道339号の狭い道を本州の袋小路へ向かう。


          


     いつもどおり、まずは竜飛集落のどんづまりで太宰文学碑を拝み、階段国道をてくてく登り、そして恒例、
    赤いボタン(注)の定期点検、なのだが、今日はいまいち盛り上がらない自分がいる。今回の旅は河の向こうの
    大地に深く分け入るせいで、ここが終点袋小路、という気がしない。
     それでも、折良く龍飛岬灯台が特別公開中で、十数回来て初めての灯台見学。いつもと違う眺めで北の大地に
    想いをはせる。
     今日はここから陸奥湾をぐるりと廻り、東の対岸、下北半島の「ヤゲン」を目指す。青森市内、ねぶた祭りも、
    いつもは必ず立ち寄る駅前のおさない食堂も素通り。夕刻、徒ほほ以来6年ぶりのヤゲンに行き着く。

     「ヤゲン」。青森県大畑町。正式には「国設薬研野営場」である。「キャンプ場」でなく、「野営場」、である。
    今回の旅で楽しみにしていた場所その1である。

      1999年6月、僕はヤゲンで沈没した。「沈没」とは、旅人が長い旅の途中、ふらりと訪ねた場所にはまり込み、
    何週間、何ヶ月と滞在、というか滞留、というか、まあ、無為に時間を過ごす(笑)ことである。
     沈没ライフの詳細は別の機会に詳細を述べるが、その時のヤゲンは旅人の巣窟、今回もそんな出会いを期待
    しての再訪である。

     さすがは8月、テントは多い。管理棟横の大きな屋根付き休憩所は、荷物いっぱいのおじさんが占有している。
    おいおい、それはさすがにねーぞ。とりあえず、木陰に設営し、まずは「さくらの湯」へ。ここは薬研温泉なる温泉地。
    旅館のほか、露天風呂が公式には2カ所(かっぱの湯と、夫婦かっぱの湯)があるのだが、旅館街とかっぱの湯の
    中程に、かつての旅館跡の露天風呂がある。これがさくらの湯。河原の木の下にコンクリ&タイル貼りの湯船。
    夏なので高温のうえ、アブ多数。しかし透明でパワーを感じるお湯でさっぱりだ。
     戻ってメシの準備をしていると、前述のおじさんに声をかけられる。京都から車で来ていて、長期滞在中らしい。
    一緒にメシを食おう、と誘われたので、僕が米を炊き、おじさんがおかずを提供。話はおもしろい人だ。
     しばらくすると、僕と同世代くらいとおぼしき、CB400フォア乗りのねーさんがやってきて、輪に加わる。
    と、おじさん、そっからはねーさんと話すのに夢中(ヲイ)。そりゃー気持ちは分からんでもないけど、あまりにも露骨に
    態度が変わったので、旅人たにぐう的には興ざめである。そこそこ話に付き合った後、離脱して缶ビールひっかけて
    寝る。

     翌朝。もとより連泊と決めていたが、そこに本降り土砂降りの雨。ここは例によって管理棟でゴロゴロするか・・・
    と、おじさんやってきて、車で出かけるけど一緒に行かないかと言う。あんまり気乗りはしないが、CBのねーさんにも
    誘われたので、のこのこ付いていく(←人のこと言えない)。雨でくそ寒いのに海水浴をし、仏ヶ浦を陸から見物、福浦の
    食堂で海の幸を食し、湯野川温泉でゴロゴロ・・・と流れて夕方のヤゲン。雨も上がり、昨日より人が多い。
    おじさんの所には常連さんらしき人々が集まり宴会が始まっている。声をかけられるが、今日はそっちには行かず、
    管理棟の前で、新たにやってきたライダーさんと、管理人さんとたき火を囲む。今年の管理人さんもライダーで、ここに
    来た縁で今年の管理人を引き受けたそうだ。僕が6年前に来たときの管理人コウさんの話をすると、会ったことがある
    と言い、コウさんの翌年から別の方がしばらくやり、今年から彼がやっているそうである。時はつながって、流れている。
    休憩所の方は賑やかだが、こちらは閑かに酒を酌み交わす感じでよろしい。たき火とともに夜は更ける。

     翌朝。晴れた。出発だ。
    残念ながら、沈没の再来はならずだ。でも、当たり前だ。前回は6月。本物の旅人しかいない時。自分も2ヶ月以上歩いて
    きて、がっちり旅人の顔。今は8月。猫も杓子も旅に出るハイシーズン。人の関わる密度が違いすぎる。自分も旅だって
    たかが数日。「ハイシーズン」組の1人でしかない。旅は、一期一会。いつも出会えるわけではない。そもそも「沈没」は
    予定通り発生するわけではない。

     それでも、出発を見送ってくれた管理人さんが、6年前の皆様と同様に、「行ってらっしゃい」と言ってくれた、その一言に
    旅人の心、「ヤゲン」の変わらぬ心意気を感じ、「行ってきます」、とヤゲンを後にする。
    また、来よう、ヤゲン。




     函館山を右手に、船は市街地西方のフェリー埠頭へと入っていく。上陸準備だ。アナウンスが流れ、車両甲板へ降りると、
    他のライダーどもはすでに身なりを整え、いつでも出撃の態勢である。接岸すると、係員がバイクを固定していたロープを
    はずしてまわる。エンジンをかけ、ヘルメットをかぶる。みなバイクにまたがり、飛び出す瞬間を待つ。

                      

     やがて、前方のゲートが開く。自動車に続いて、係員が手招きする。上陸だ。はやる気持ちと新しい大地に降り立つ緊張感。
    注意深くゲートを下り埠頭に降り立つと、一気に世界が解放される。バイクを停め、新しい空気を吸うのもよいものだが、
    今日はこのまま流れていこう。2車線の国道を市街地方面へ。ここは、函館である。














はぁ〜〜〜るばるきたぜはぁっこだてぇ〜〜♪
  さぁ〜〜〜かまくなみをのりこえてぇ〜〜♪







     ・・・お前はそれしかないんかい、と言われそうだが(笑)、ヘルメットなのをいいことに熱唱絶好調。さいこうだ。
    と、道ばたに、「ラッキーピエロ」の看板発見。サブちゃんは中断し、ピットイン。腹減った。函館ローカルのハンバーガーで
    遅い昼食。
     さて、前進だ。函館駅には行かず、環状線から国道5号へ。松並木の道をゆるやかに登り、峠を越えると大沼と、カニのハサミ
    のような駒ヶ岳。
     森町。国道をそれ、駅へ。晩のつまみに、定番森のいかめし入手。駅に続く通りに大きな公園。バイクを停めて入っていくと、
    覚えのある大きな東屋。6年前の雨の日をしのいだことを思い出す。緑が気持ちいい。

                       



     噴火湾を右手に見ながら、国道5号を爆走。80km/hは普通で、時々爆走トラックにぶち抜かれる。こええよう。
    緊張と単調で眠くなってきた。長万部町に入り、北豊津。広い駐車スペースに単車を停め、アスファルトに寝転がる。
    ぐーーーーーーー、といきたいのだが、爆走トラックが地響き立てて通過していくので安眠とはいかない。それでも30分ほど
    転がっていると少し回復。
     長万部からも国道5号で山へ分け入る。車は少ない。

     蕨岱駅。ここも記憶の地。駅ノートはさらに充実。探してみると、1999年の徒ほほな記述も残っていた。
  
     道草ばかりしているともう17時を回っている。車もバイクもいない道をすっ飛ばし、蘭越の町で県道を左へ。
    緑にそびえるニセコ連山を登っていく。
     五色温泉の隣にある、ニセコ野営場へ。小さいが無料で、しかも草地できれい。テントサイトは三段になっていて、
    最上段はすでに一杯。そこそこ眺めのよい二段目にテントを張る。
    メシを食い、隣のニセコ五色温泉へ。10年以上前に来たときは年季の入った山小屋風の旅館だったが、とてもこぎれいに
   リニューアルされている。宿の風情はなくなったが、しかし、白濁高温の酸っぱい硫黄味臭の湯は強力。今朝、下風呂温泉で
   付けてきた硫黄臭を体に上塗り。露天風呂からは、昔と変わらず星空を仰ぐ。
    21時の閉店まで粘り、テントの中まで硫黄臭を漂わせながら、おやすみなさい。



  2005年8月7日  青森県金木町→青森県大畑町  晴れ/曇り     走行距離 約260km
        8月8日  青森県大畑町            雨/晴れ       走行距離     0km
         8月9日  青森県大畑町→北海道蘭越町  晴れ         走行距離 約230km

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