北海道・中編  神の山、大地のどまんなか  〜プロローグ〜


     ヒコーキの爆音で目覚める。
    現在地は由仁町の伏見台公園キャンプ場。小さいけれど道央と道東への中継点的な立地で、温泉至近。
    すでに3回くらい使っている。ちょうど千歳空港への進入路らしく、ヒコーキを見ながらメシ。

     今日は長い。7時10分出発。気合いを入れて走り出すもハナから眠い。
    国道274号へ入り、快適に流れる。が、快適すぎてますます眠い・・・。

     夕張を過ぎ、穂別町福山。大きな駐車場と公園。木陰に幅の広いベンチ。おやすみなさい。

     


      むく。よく寝た。時計。1時間経ってる。すっきりした。やる気俄然増量。

      国道274号、またの名を樹海ロード。その名の通り、深緑色の針葉樹の森の中に、道は伸びる。
     前方を見上げれば、針葉樹の山の塊。そこに開けられたトンネル。屋根のないバイクは前面展望抜群。
     山の塊がゆっくりと自分に迫り、次の瞬間にその腹の中へ吸い込まれる。トンネルを潜るたびに、
     自分の肉体の中を、深緑色の粒子が通過していくような感覚が強まる。これが「風になる」というやつ
     なのだろうか。快適なスピードの中、橋とトンネル、ゆるやかなカーブにバイクを傾ける。
     
     
      日高町中心部を過ぎ、家並みが途切れた頃に突如流れが止まる。ピクリとも動かない。???
     この先50km民家はない。とすると事故渋滞???バイクなのですり抜けて行けなくはないが、
     そういう急ぎ方をする気分でもないのでおとなしく車列に並ぶ。ノロ・・・ノロ・・・、時々動く・・・。
     何でだろう?・・・と、対向車が停まり、おっちゃんが顔を出す。

     「この先でよ、牧草ロール積んだトレーラーがよ、牧草積みすぎてて、スノーシェッドに積み荷の牧草
      ぶつけてよ、道路に牧草ぶちまけて停まっとんのやわあ」

      何と北海道な。しかし、牧草ならどければ通れるな。ほどなく、後方からパトカーやら消防やらが
     反対車線をすっ飛んでいく。やがて、ノロノロ徐々に動き出す。前方にスノーシェッド(雪よけの人工の洞門)。
     おっちゃんの言う通り、牧草ロール山積みのトレーラーが、積み荷を洞門の天井にぶつけて停まっている。
     ぶち撒かれた牧草を関係者が必死に片付ける横を過ぎると、国道は再び、いや停められたうっぷんを
    晴らすがごとくの爆走路。日勝峠へ向けてゆるやかな登りを負けずに爆走で登る。

      峠手前、「展望地」の看板に誘われて脇のジャリ道へ。ジャリ大きく、爆走はやめてソロリ。
     ちょうど峠になっている所で広場になり、道は終わる。右手にはペケレベツ岳へ続く急な草原。

      

     雲が流れる。正面、霞がかかってはいるが、山のない、平らな大地がぼんやり広がる。
     風の通り道。生ぬるい十勝の風が吹き上がる。またしても新しい世界へ脱出するのだ。

      国道に戻り、爆走ワインディング峠道を下る。周りの四輪が速いので、こちらも目を三角にして
     コーナーへとバイクを傾ける。己の中の暴力的なものが目覚めてくる。平地に出てゆるやかな直線路になっても
     覚醒した暴力は止まらない。清水の町に入り、国道38号にぶち当たる。
     右に行けば、帯広、釧路のメイン道路なれど、町や信号は爆走にならない。地図読みで、国道274号→241号
     が中標津への最短快速路と踏んで、左折。すぐに右折し、十勝川を渡ると森と農地の世界。
     鹿追町。国道は左にカーブしていくが、直線農道に突入。再びスロットルは全開だ。
     農道なれど、交差道路はこっち優先。畑と防風林の道を暴力的にぶっ飛ばす。

      瓜幕。左から国道合流。2km走って右折したとこから、またも信号なしの直線路。牧草地と森と畑の世界。
     遠くまで平原の広がりを感じる。ゆるやかなアップダウンの道の上、聞こえるのは全開のエンジンの、
     途切れのない唸りだけ。余計なものはすべて後方へすっ飛んでいく。



      スピード狂、というわけではない。でも、時々エンジン付きの乗り物を駆ってとにかく突っ走りたいことがある。
     目的地は、特にいらない。いつもより速いスピードで、コーナーに突っ込む。景色がない方が走ることに集中
     できるので、時間は夜がいい。何も考えず、ただ走る。意味は、たぶんない。道が終点になって物理的に
     それ以上進めない所まで行ったら終了である。あとは諦めて帰るだけだ。ガソリンの無駄?間違いなく無駄だ。
     でも、帰ってくると何かよくわからない満足と充実はある。
      実はこのホームページのタイトルは「MidNight LongRange Drive」である。開設者の友人がりや氏の命名である。
     彼いわく、「『真夜中に爆走』とでも読んでくれ」とのことである。大学生の時分は、思いついたらそんなことを
     一人で、あるいは仲間と、ちょくちょく繰り返した。物理的終点は、日本海に始まり、美ヶ原頂上、
     そして龍飛岬(詳細はここ)へと行き着いた。今でも、ふと「このまま何もかも放っぽりだして、この道の終点まで
     走っていってやろうか」と思う時はある。そうした無為で暴力的な時間は、眠る野生の発現なのかもしれない。
      そしてバイクは、体じゅうに浴びる風が、クルマよりも一層、余計なものをすべて後方へ吹っ飛ばしてくれるのだ。



      士幌、上士幌の町を挟んで、爆走は続く。12時半、日勝峠から2時間で足寄の町。ひたすら走って贅肉は
     そげ落ちた。スーパーでパンとコロッケ400円也を仕入れ、バイクにも油。すでに220km/半日だが、目的地は
     あと200kmくらいか。阿寒湖へ続く国道241号へ。ゆるやかな山と森の中、交通量少ない。
      螺湾(らわん)。脇の道道へ入り、スロットルを緩める。やがて前方に赤茶けた雌阿寒岳と阿寒富士。火山の
     国の始まりだ。ここ螺湾は、ラワンブキなる巨大なフキの群生地である。ラワンブキ、ちょうど「となりのトトロ」で、
     トトロが傘の代わりにしていた、アレのイメージである。盛りは7月で一度来ているのだが、何となく寄ってみた。
     そこらじゅうに群生しているのだが、入れるフキ畑ありで、ちと散歩。

           

      さすがに盛りは過ぎて枯れ気味でいまいち。「ととろごっこ」するには物足りず。しかし、その先も相変わらず
     道ばたに川沿いに群生しまくっている。そして、道はダート道道オンネトー線に。
     短いけど濃い森をゆくジャリ道が素敵である。

           

      しかし、路肩の深ジャリにハンドルを取られてゴロンと転倒。イテテ。レバー折れなどはないが、過積載高重心な
     積み荷では引き起こし不能。荷物をバラし、単車を起こし、淡々と積載・・・。
      気を取り直し、オンネトー。

          

      いい色だ。しかし、観光バスも入ってくる所なので落ち着かない。湖はそこそこに、ぶっ飛ばした汗を流そう。
     すぐの雌阿寒温泉へ。「野中温泉別館」を選択。リニューアルして新しいがフル木造で味のある建物。
     腐った卵な硫黄臭全開のお湯は、透明で熱く大地のパワーを感じる。硫化水素系なのに白濁してないのは新鮮
     だからなのか。ぬるめの開放的露天風呂に移動し、白い湯の花、快晴の青空の下、体じゅうのネジが緩む。


      緩まって眠い。が、もうひとっ走りだ。阿寒湖は通過し、峠を登る。爆走!!といきたいのだが、ここは観光道路。
     観光バスにブロックされてチンタラ走る・・・。


      弟子屈を過ぎると道は再びオール、クリアー。直線の道道をまたもぶっ飛ばす。
     いつもなら、「まっすぐーーー」「ひろがるだいちーーー」とかなるのだが、そぎ落とされまくった後につき、あるのは
     風を切る音と、エンジンの唸り。



      18時半。開陽台の丘が見えてきた。開陽台。根釧台地の北の端。丘の上からは広がる大地。そして旅人の集まる地。
     丘を登ると駐車場とトイレ、そこから階段登ると展望台、その裏にキャンプサイト。しかし二輪車だけは、トイレの裏から
     単車幅のトラックを登ってキャンプサイトに横付けできる。当たり前じゃんという態度で(笑)駐車場を横断し、勢いをつけて
     シングルトラックに突入、ガタガタ道をアクセルふかし、キャンプサイト横に乗り付ける。

      さすがはお盆時期。サイトは旅人用のテントで賑わっている。東側の柵の所に設営。テントの入り口は朝日向きだ。
     隣のライダーは、仕事休みで横浜から来ているという。メシが炊きあがる頃にはすっかり真っ暗。腹が満たされれば
     疲れが足下からひたひたと押し寄せる。星空もそこそこに、眠りに落ちるとしよう。



  2005年8月12日  北海道由仁町→中標津町  晴れ     走行距離 約380km
 




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