北海道・後編 最後の夏祭り 〜序〜
テントの外がぼんやり明るい。時計は...午前5時前。外に出て見渡すが、山々は雲の中。
晴れたら山行きたいんだけどなぁ。トイレで身軽になり、二度寝。
次に目が覚めると8時まわっとる。やはり山は雲の中。しゃーない。体も適度にだるいし、
今日は休息日だ。ゆっくり米を炊き、ふりかけご飯の朝メシ。そしてごろごろしながら持ってきた文庫本を読む。
今朝は新田次郎の「孤高の人」。単独行登山者加藤文太郎をモデルにした小説なのだが、何となく脚色がきつい
気がする。最後の山行で遭難するくだりの心情描写は納得いかない。やな終わり方だなあ。
そこで本を閉じ、活動開始。手洗い洗濯物が臭くなってきたので単車に乗り中標津の町へ。片道20kmの買い出しは
徒歩では不可能だったが、単車なら直線をひとっ走り。記憶を頼りにマルエー温泉横のコインランドリーへ。洗濯物を
ぶち込み、入ったことのない温泉を開拓すべく、中標津保養所温泉へ。カランからも温泉が出る。熱めの塩味の湯に
疲れがしみ出す。3日ぶりにシャンプー石けん、ひげも剃ってさっぱり。ランドリーで洗濯物を回収し、20km走って帰宅。
テント周りにひもを張り、洗濯物を干す。テントの前にドカシートを広げて寝転がれば、生活臭全開テントのできあがり。
表で転がっていると、近所のキャンパーに声を掛けられる。じいさんとおじさんのオフロードバイクコンビ、実は親子で
山形庄内から来たという。じいさんの方が行ったことのない北海道にツーリングに行きたい、ということで親子で出かけて
きたそうな。じいさんは70歳を越え、おじさんも50過ぎ。その歳で親子旅って理想やな。
腹時計が昼過ぎを主張しだした。単車で出発。開陽台の坂を下り、すぐの十字路にさしかかると、先ほどの庄内親子と
ゼファーの兄さんが単車を停めて話している。ゼファー兄さんが単車でこけ、足ブレーキのレバー曲がり、ブレーキホースから
ブレーキオイル漏れだという。とりあえずブレーキレバーをまっすぐにしないと走れない。「これ使うか」。じいさんが脇の工事現場
から角材を持ってきたので、3人でかわるがわるレバーをどつく。レバー動くようになったので、兄さんは町のバイク屋へ、
またもひと仕事して満足。温泉に行く親子と別れ町へ。向かうは「すしロード」なる回転寿司。
ここは旅人には有名な回転寿司。回転と言ってもネタの新鮮さ旨さは無回転にもひけを取らないのが北海道。14時近いのだが
30分ほど待って着席。すでにこの旅3軒目のすしやなので、マグロとかはナシで、ひたすら地魚を攻める。サンマ、マスノスケ、
とろサーモンが当たり。おかわり。口の中でネタがとろけていく。満腹食うても2000円でおつりが来る。ごちそうさま。
再び町へ寄り、酒屋でビールを買い込んで帰宅。展望台の売店で中標津牛乳を飲み、またもブルーシートに寝っ転がる。16時。
からまつの湯でひとっ風呂、などと思ったが、何か1日ちょこちょこ出歩いてばっかりだなー、と思うとやる気がなくなる。バイクが
あると何となく出歩いてしまって、開陽台をちゃんと楽しんでいないなー・・・・。そうなのだ、今日1日、停滞と決めた割には我が家に
ちっともいないではないか。これがもし徒歩なら?当然どこにも行けない。買い出しも無理。そのかわり、骨の髄まで開陽台だ。
6年前は、丘の上で広がる大地を堪能しまくろうと思って連泊した。日が昇ると、連泊のライダーさんたちはめいめいお出かけ、
テント29張り、留守番自分1人、なんて状況だった。それも可笑しく楽しく、日陰を求めて寝転がっていると、ライダーさんたちが
メシをごちそうしてくれたり、「何か買ってくるもんある?」と声をかけてくれたり。そんな感じでゆるく話し相手ができ、メシを食い、
星を眺める。ゆるやかな繋がりのある定住生活だった。それと比べると、今回自分がバイクであるがゆえに、何か落ち着かない、
物足りない開陽台だなー・・・、自分はやっぱり人力で来ないと駄目みたいやなー・・・。曇り空のブルーシート上で、考えごと。
(開陽台テントサイト。右上2番目、ブルーシートと洗濯物のが我が家。)
時計を見ると17時回っている。駐車場のトイレまで下りると、ちょうどいっしー君一行がやってきた。
いっしー君は現在大学3年生。たにぐうが就職して一番最初に教えた生徒でもある。6月に会った時に、夏に北海道に行く
話をした ところ、「友人に十勝出身のやつがいるので、夏は北海道行くんですよ。ならどこかのキャンプ場で宴会
しましょう!」となり、予定が合いそうな今日、せっかくなら北海道らしい所で、ということで開陽台集合となったのである。
いっしー君はHONDAのCB250乗りなのだが、今回は彼女さんが一緒のため、レンタカー+バイク2台の4人組。旅人仕様の
小ぶりなテント群の中にひときわでかいファミリー用のテントを立てる。彼らはひとまず風呂と買い出しに行くというので、
ブルーシートに戻り、ビールを飲みながらさらに転がる。迷想続き。
今回、バイクでは初の長旅である。初日の日記にも書いたが、風を浴び続けて走るのは思った以上に体力を削がれる。
だからこそ自分で旅している感じがして好ましい。それに「風になれる」という表現も、何日も走っているうちに実感として身についた。
何もない道をひたすら走る。そう、何もない道をひたすら走る時間が長いのが北海道のいい所だ。走りながらいろいろ考えごとは
しているのだが、余計なものは綺麗に後方へすっ飛んでいって、1日の終わりにはさっぱりとした自分がいるのだ。これは、楽しい。
しかし、である。やはり徒ほほな旅人をやってしまっているせいか、物足りない何かがあるのも間違いない。徒歩ならば、中標津
あたりの何もない道だとどうなるか?何時間歩いても道はまっすぐ、日陰なし、アブの集中攻撃ありの快適の対極。こんなとこ歩こう
なんてアホちゃうかと自分に悪態をついてみたり。1日が終わっても爽快とはとてもいえない。でも。1歩を踏みしめるたび、自分は
ここに存在しているのだ、という実感がある。アブを叩き落としながら、北海道の野生は人間に迎合していないことを思い知る。肉体を
駆使してこそ本物の感動、とどこかで書いたが、感動している余裕はないし、そんな綺麗な言葉はそぐわない。西別岳は最高だった。
でも、一番自分がやりたいのは、何もない道を何日も何日も歩くことなのだ・・・。バイクという手段を使って、同じフィールドに来たから
こそ気がつけることもある、ということか。
迷想は妄想から夢の世界へ。気がつくとすっかり真っ暗だ。ほどなくいっしー君たちが帰宅。彼らの食事にお呼ばれする。ビールを
差し入れ、できたて焼きそばを頂く。あたりはすっかり雲と霧。いっしー君たちは、たにぐうとほぼ同じくらいに上陸、昨日までは十勝に
いて、勝毎花火を見てきたという。予定は特に決まってないらしく、「明日は知床の方にでも行こうかなー」てな感じである。他の3人は
初対面なのだが、いっしー君が、過去の悪行を含めて事前に話を撒いてくれていたようで、「どんな人かと思ってましたが意外と普通
ですね」などと言われる。褒められているのかけなされているのか、てやつだ。そのせいで、
「帯広名物といえば、ほていさまちゅいーん、だ!!」
などと旅のおかしい話を調子に乗ってしゃべる。ちなみに、授業を1年受け持っただけの彼とここまでの繋がりがあるのは、
勉強合宿の夜に彼らの部屋で出向いて、「ほていさまちゅいーん実演講義」を行ったからに他ならない(若気の至り)。「いつ帰るの?」
と聞くと、「19日に苫小牧から名古屋行きの船に乗りますよ」と言う。何やて?その船ならたにぐうも予約しとるがな。「じゃあ、続きは
帰りの船ってことで、¥。楽しみにしてますね」。いつものことだが偶然の繋がりはあなどれない。寒くなってきたので片付け、星が見える
か粘ってみる、という彼らと別れ、1日の最後は心地よく寝床につく。
明日は、出発だ。
2005年8月14日 北海道中標津町 曇り 走行距離 約80km